第30回：LOOΠΔから音圧問題について〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜LOOΠΔ「Butterfly」を入口に、音圧問題、そして音楽で“沸く”ことを考える

南波：
画一的に沸くんじゃなくて、それぞれが好きに楽しむというのが理想だけど、フェスみたいな対外試合で、遠くから観たときにみんなが手を挙げている光景が欲しいっていうのはわからないでもないんですよね。

小出：
そういうものがバロメーターになってしまうからね。

大久保：
フェスのレポの写真が上がるじゃないですか。そこでみんなの手が挙がっているから盛り上がっているってことになっちゃうんですよ。それのよくない影響もあるとは思います。

小出：
すごく正直なことを言うと、それを見て、あーこれは盛り上がってるなと思ったことはない。

南波：
そんな（笑）。

小出：
これはプレイヤー側だからそう思うことかもしれないけど、僕はやっぱり、見てて殺されるんじゃないかって感じさせることもすごく大切だと思っていて。eastern youthなんて映像で観てても殺されるんじゃないかって思うじゃないですか。ZAZEN BOYSとかもそうだし。サンボマスターの山口さんが言っていたらしいんですけど、eastern youthは客を孤独にするのがすごいと。究極はそこにあるなと思っていて。その場に200人いたら、1人×200にする。1人ひとりがバンドの演奏やメンバーの佇まいに没入して、そのことによって自分のことを考えたりしている。それを体験させるというのはやろうと思ってできないすごいこと。圧倒するってことだから。映画とかでもそうだなと思っていて。『バーニング 劇場版』観た？

南波：
観た観た。打ちのめされました。

小出：
すごい気持ちにならなかった？　なんなんだこれはっていう。ライヴでも“楽しかった”にプラスで“なんだったんだろう、この体験は”って感じを与えられたらいいなって思う。でも同時に、ちょっと話が戻っちゃうんだけど、ヒップホップ的なそれはまた違うのかなと思っていて。『人間交差点』とかでライムスターを観ていると、言葉で連れていってる。そこは違うなと思います。あ、でも、バンドでも連れていくのがウマい人は言葉がウマいな。やっぱりそれもバランスなのかな。ただ、オイオイの言い合いっこばっかりは、少なくとも盛り上がりとは違うよね。

南波：
そうなんですよね。地下アイドルはいつも一晩で何組も出るイベントをやっているから、オイオイ言わない曲をやると相対的に盛り下がってるように感じてしまいがちなんだけど、あまり気にしてなくていいのになとは思う……すべては対バンのせいだな！

小出：
あはは（笑）。ある場面がほかよりも優れていたっていうことで競っちゃうと、そういうことになりがちですよね。抑揚をつけることは大事だし、着火剤として記号的に沸くシーンを作るのも問題ないと思う。

南波：
最初の話に戻ると、音作りも抑揚が大事だと。ずっとパツパツはダメ。

小出：
音作りをパツパツにすると手元でボリュームいじれなくなるじゃないですか。どうしてそのことに気づかなかったのかという。

南波：
音圧戦争はもうやめようって20年くらいずっと言われていたじゃないですか。

小出：
誰もやめなかったね。それがやっと下がり始めるのかなって。松井寛さんも「Partition Love」（東京女子流）を作っているときに言ってた。「音圧戦争には乗らない」って。

南波：
音をパツパツにするとダイナミクスがなくなっちゃうんだけど、派手に聴こえるじゃないですか。ほかより派手なのが重要っていうのは今日のオイオイ話に直結してますよね。ただ、それがサブスクのリミッターの件で、変化していくかもしれない。

小出：
スタジオだとダイナミクスが針の振れかたでわかるじゃないですか。ドレイクとかはめっちゃ動く。これだけ隙間があると、こんな振れかたをするんだって思う。アイドルソングとかを聴くと針が行ったっきり帰ってこない（笑）。

南波：
ずっと振れっぱなし。

小出：
隙間のあるなしは仕上げの強弱とか立体感に関わってくることなんですよね。今回、『ポラリス』を作るなかで改めていろんなことに気づきました。ただ、サブスク時代の音作りの考え方が浸透していくと、今度はまたダイナミックレンジ戦争が起きるかもしれないけどね（笑）。でも、抑揚で争うことはいいことだと思う。それは音楽の作り方・聴き方にも、ライヴの在り方にも変化をもたらせるはず。

南波：
いやぁ、こういう話は普段なかなかしないから面白いね。

小出：
でも、これが記事になっても反応薄そうだなー（笑）。　

【今週のまとめ】
隙間、抑揚が大事！　そして今週はかなり長くなってしまったので、次回は物足りないくらい短くなる気がします、と先に書いておきます（すみません）。