
NEO JAPONISM、MIGMA SHELTER、RAY それぞれの配信ライブで見た「自粛期間に爪を研ぐ」ということ|「偶像音楽 斯斯然然」第35回
NEO JAPONISM、MIGMA SHELTER、RAY それぞれの配信ライブで見た「自粛期間に爪を研ぐ」ということ|「偶像音楽 斯斯然然」第35回
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
MIGMA SHELTER サイケデリックトランスの妖艶な宴
作品的な配信ライブで印象的だったのは、7月9日に恵比寿LIQUIDROOMで開催されたMIGMA SHELTERの無観客生配信レイヴ<RAVE AGAINST 01>。クラウドファンディングで集めた1,200万円という金額はファンの熱量を物語っている。その制作費をもとにアルバム『ALICE』と最大規模となる全国ツアー<SIX ALICE REMIXED TOUR>が決定していたが、世の情勢が変わり、諸々を延期せざるを得ない状況になってしまった。そんな中で、本来ツアーファイナルを手がけるはずだった制作チームが、今回の配信レイヴを手がけるというのだから、期待せずにはいられない。
『不思議の国のアリス』をモチーフとするコンセプトアルバムをリリースすると聞いた時、まったくピンとこなかった。サイケデリックトランスを掲げるMIGMA SHELTERのイメージと童話作品の世界観が合致するとは思えなかったというのが正直なところだ。もちろん、MIGMA SHELTERの制作チーム、田中紘治ディレクターならびにAqbiRecの作る音楽とサウンドには絶対の信頼があるし、今回も素晴らしい作品を届けてくることはわかっていたものの、それが私個人が好きなMIGMA SHELTERの作品なのかどうかは別だ。そう思っていた。この配信レイヴを観るまでは——。
集合体恐怖症を逆撫でていくような気色の悪い(褒め言葉)ステージオブジェをバックに作り上げていく深淵へと引き摺り込まれていく。“推しの尊顔を拝する”といったヲタク願望を無視したアーティスティックなカメラワークに、本配信の意味を冒頭から感じ取った。
そしてハイライト、中盤からはアルバム『ALICE』の収録曲を次々と披露していく。ダークなMVも印象的な「Rabiddo」、チューバ、トロンボーンの中低音のブラスが陽気な旋律を奏でているはずなのに不気味にも聴こえてくる「Y」、民族楽器ディジュリドゥが唸り響く「QUEEN」ではBPM144のMIGMA SHELTERの掟を破って最高速の疾走を見せた。メンバーのパフォーマンスも、『不思議の国のアリス』の話に基づいたような無言劇を観ているようでもあり、可愛らしさと妖しさを自由に行き来しているような様に息を呑んだ。デンマークのインディペンデントシーンでは、お伽噺をモチーフに不思議と不気味をウマく落とし込んだアーティストや楽曲を多く見かけるのだが、そうしたアプローチに通ずるものがある。音楽的には日本人が思い描くサイケデリックトランスというよりも、海外での本格志向のサイケデリックトランスに近づいた、そんな印象を持った。“SUGIZO(Juno Reactor)が雪駄履いて「モーストレイン!(Mo’ Strain)」やるまで見届けるぞ”——これは私がMIGMA SHELTERを観る度に勝手に思い続けていることなのだが、改めてそう思った。
ダイナミックな動きで魅せていくレーレであったり、いつの間にか歌唱面で安定感を見せるようになったブラジルであったり。何より、そんな妖艶な世界観を体現するメンバーのパフォーマンスのすごみを改めて感じた。野生味溢れていたオリジナルメンバー時代に比べると、より洗練されたイメージのある現体制。旧体制を楽曲含め踏襲しつつも新たなオリジナリティで昇華していることはわかっていたものの、『ALICE』に対し半信半疑であったのは私自身が旧体制からの呪縛に囚われていたのかもしれない。今は『ALICE』のリリースが楽しみで仕方ない。
MIGMA SHELTER - Rabiddo
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