豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg……さらなる進化を遂げる「WACKの素晴らしき世界」|「偶像音楽 斯斯然然」第33回
豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg……さらなる進化を遂げる「WACKの素晴らしき世界」|「偶像音楽 斯斯然然」第33回
これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
さらに拡がるギターのアプローチ
さて、そんなWACKの進化はサウンド面にも表れている。豆柴の大群『スタート』のサウンドメイクで印象的だったのが、ギターの使い方である。これまで、BiSやBiSH楽曲に多く見られるように、深めのディストーションサウンドによるリフやパワーコードなど、サウンドを分厚くしていく音の壁としての役割が多かったのに対し、近作ではエッジの効いたプレイ、テンションノートを含んだコードボイシングや細かいパッセージが多くなっている。これに関していえば豆柴の大群が顕著であり、グループのサウンド特性として成立しているものの、「WAggの素晴らしき世界」であったり、EMPiREのフォークトロニカ+ドリームポップ「ORDiNARY」、ハネたガーリーポップ「I have to go」などの新曲をとってみても、今までWACKでは聴いたことのなかったギターのアプローチが耳に残る。これはWACKとSCRAMBLESとの制作の中で方向性が拡がっていることを感じる部分である。
オーロラのようなメロディとそこにシュプールを描いていくようなギターのトレモロが印象的なEMPiRE「ORDiNARY」
こうした、オルタナティヴロックの潮流を感じさせるアグレッシヴなギターアプローチは、PEDROの影響もあるのかなと考えてみたりする。言わずもがな、PEDROは田渕ひさ子のギターが大きな存在感を放っている3ピースバンド編成であるが、楽曲クレジットには他WACKグループ同様にSCRAMBLESの面々がトラックデザインとして名を連ねている。
エッジの効いたギターフレーズが特徴的なPEDRO「WORLD IS PAIN」(トラックデザインは仲谷コータロー)
豆柴の大群『スタート』のクレジットを見れば、松隈が多くの作曲を手掛けながらも、oniをはじめ、CARRY LOOSEをプロデュースするT.S.I(豊住サトシ、佐藤カズキ、井口イチロウ)の面々、NEO JAPONISMなどWACK以外を多く手掛ける仲谷コータローなど、複数のSCRAMBLESクリエイターがトラックデザインを担当しており、同チームのコライト(複数人による制作体制)が、楽曲とサウンドのさまざまなバリエーションを生み出す大きな要因となっていることがわかる。加えて、全体的にくっきりとした音像になったのは、新しくなったスタジオの影響だろうか。
これまで、多くのロックファンをも魅了してきたWACKであるが、ますますの攻勢に目が離せない。
豆柴の大群『スタート』
【過去の連載一覧】
- 4