えいたそ×DIR EN GREY、あゆくま×バクシン、大阪☆春夏秋冬……アイドルとバンドが結ぶ強度|「偶像音楽 斯斯然然」第31回

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PerfumeからPassCodeへ 意外と知らないオートチューン“ケロケロボイス”の世界|「偶像音楽 斯斯然然」第32回

これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ケロケロボイスがもたらす可能性

さて、特定の楽曲にフックを与えるような使われ方をしていたケロケロボイスであったが、いつの間にかアーティスト性を表すものとなった。PassCodeは、その確固たる代表だろう。図太く歪んだサウンドと激しいデジタルビート、緩急の激しい楽曲展開に、このエフェクティブで無機質なボーカルは実に相性がいい。これまで、エフェクトボーカルに抵抗があった人でも、PassCodeによってそれがなくなったどころか、心地よさを感じるようになったという声もよく耳にする。

機械的に聴こえる声の中で人間的な温かさを感じ取れる PassCode「STARRY SKY」(2020年)

“歌唱力を隠すために掛けているのでは?”なんていう否定的な声を耳にすることがあるが、このケロケロボイスのエフェクトを掛けることは非常に高い技術を要するのである。好き勝手に歌えばいいわけではないし、不安定な音程を補正するための処理によって生み出されるものであるからといって、音程を外したところで修正してくれるわけでもない。その微妙なニュアンスは歌い手とそれを操るエンジニアの腕次第といったところ。作品作りであれば、手間と時間でなんとかなるものも、ライブのリアルタイムで掛けるとなれば余計に至難の技。もっとも、プラグインやエフェクト機材の持ち込みやPAエンジニアの乗り込みといった技術的な問題もあるわけだし、リハーサルができないことも多いアイドルイベントの中では、非常に効率が悪い。しかしながら、そこまでしてでもこだわりたいアーティスト性というものは魅力的に思えるものだ。

ライブにおける“掛かり方”がよくわかる 我儘ラキア「Leaving」(渋谷O-WEST 2020年2月)

“PassCode以降”という言葉が、この先使われるようになるかもしれない。7月にメジャーデビューする8bitBRAINは、まさにこのラウドなサウンドとケロケロボイスが融合する象徴的な存在であり、新たな潮流を感じさせるグループでもある。

“パンデミックさせちゃだめだ”という歌詞もこのご時世、センセーショナルに響く 8bitBRAIN「Under the weather」

正直、ここまで深く掛けるか!?と突っ込みたくなるほどの全曲全編に渡るケロケロっぷりがすさまじく、人力演奏を無視した容赦ないバンドサウンドに乗るメロディ自体はなだらかでキャッチーだ。

ほかにも独自のオリエンタルエレポップを突き進むCY8ERや、混沌とした不条理な世界観を彩る代代代など、ケロケロボイスやボーカルエフェクトを巧みに操るアイドルグループは増えてきているし、“歌声も楽器”という考えを持つクリエイターも多い。とくに女性ボーカルは加工によって生み出される揺らぎの美しさが映える声色であると思う。

一聴すると、平坦で無機的に聴こえるこの“オートチューンの掛かった”ケロケロボイスだが、聴けば聴くほど奥深くて面白いはずだ。

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