ドラマ『M 愛すべき人がいて』で学ぶ“歌姫”の時代 浜崎あゆみとエイベックスは何がすごかったのか|「偶像音楽 斯斯然然」第30回

ドラマ『M 愛すべき人がいて』で学ぶ“歌姫”の時代 浜崎あゆみとエイベックスは何がすごかったのか|「偶像音楽 斯斯然然」第30回

ドラマ『M 愛すべき人がいて』で学ぶ“歌姫”の時代 浜崎あゆみとエイベックスは何がすごかったのか|「偶像音楽 斯斯然然」第30回

これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

浜崎あゆみとロックの親和性

浜崎曲といえば高低差の激しいメロディラインとメリハリを効かせたアレンジ。これはLUNA SEA以降のヴィジュアル系ロックの常套手段でもある。鼻にかけながらシャクるボーカルスタイルもそうしたメロディを強調するのに一役買っている。

そんな楽曲を制作していたのは、浜崎曲によってその名を馳せる菊池一仁(「Depend on you」「appears」「SURREAL」……など)、のちにDo As InfinityのメンバーとなるD・A・Iこと、長尾大(「TO BE」「Boys & Girls」「SEASONS」……など)といった当時はまだ無名の若手ギタリストであり、筋肉少女帯のインディーズ時代の楽曲を手掛けていた鈴木直人が編曲に携わっている。

野村義男(Gt)、エンリケ(Ba/BARBEE BOYS)、牟田昌広(Dr/ex.SADS)というライブサポートメンバーもロック色を強めていた。

V-ROCKテイストたっぷりの浜崎あゆみ「SURREAL」

余談だが当時、私は音楽専門学校で学生たちをデビューさせる新人開発の仕事をしており、クリエイター志望の学生が増えていく中で、D・A・I氏らが所属していたエイベックスグループの制作会社、アクシヴの仕事ぶりを目の当たりにしていた。

“4分の曲を2分で作っている(あくまでイメージ)”ような勢いに衝撃を受けた。そこから1曲に時間を割くことよりも、たくさんの曲を作るほうがよい、という単純なことではなく、“完成するまでの過程”をより多く経験することが大事なのだと教えられた。

長尾時代のD・A・Iは、切ないメロディと影のある詞、毎回違うアプローチで攻めてくる実験的なオルタナロックサウンドが絶品 Do As Infinity「rumble fish」(2000年)

カリスマ性と作家性

浜崎が圧倒的なカリスマであったのは、歌とファッションのみならず、全曲自ら書いた詞も大きい。

“タイトルは英語、サビは日本語”、タイトルは英語だがサビには英語を用いらないことが彼女の作詞における決まりごとであり、作家性でもある。ステージやテレビで見かける彼女の浮世離れした姿とは違い、詞は赤裸々でリアルであり、同郷で同い歳の椎名林檎とよく対比されていた。椎名は曲に自分の本心をあまり出そうとはしないからだ。

当時、女性による負の感情を叩きつけるようなオルタナティヴロックが支持を集めていた時代でもあり、そのきっかけはCoccoだった。hideが彼女のことを“NIRVANAを従えた中島みゆき”と表現したのは言い得て妙で、グランジなサウンドに乗せて“死”とダイレクトに向き合うことであったり、こんなにも極端で陰鬱な思考を歌っていいのだと誰もが思ったものだ。そんなCoccoで歌の力に目覚め、椎名林檎になりたいシンガーソングライター志望の学生たちも、浜崎を一目置いており、“エイベックスの音楽は興味ないけど、ayuは好き”という学生も多かった。

浜崎は安室奈美恵と比べられることもあるが、当時の女子の心情を現在に置き換えると、“安室ちゃんは陽キャの教祖、ayuは陰キャの希望”とでも言ったところか。とはいえ、両者は微妙にブレイク時期が違うので安易に比べるのは無理があるが。

90年代のシーンはアイドル氷河期とも呼ばれた時代。森高千里がシンガーソングライターへの傾向を強めたことが表すように、アイドル性と作家としての才を持ち合わせたシンガーソングライターが多く台頭してきており、音楽雑誌『GiRLPOP』が牽引したメディアミックスムーヴメントがあった。エイベックスの成功は女性シンガーをGiRLPOPから“歌姫”の時代へとリードしていった。

マサの言葉を借りれば、アユ(ayu)は歌手でもアイドルでもない、“アーティスト”である。

当時国民的人気を誇っていたモーニング娘。「恋愛レボリューション21」(同じ2000年12月13日リリース)をオリコンチャートで上回る大ヒットとなった「M」は、作詞はもちろん“CREA”名義で浜崎自ら作曲している。この楽曲の頭文字が“MARIA”ではなく、“Max Matsuura”だったなんて、今さら聞きたくなかったな……(結局そこかよ)。

“自分の身を滅ぼすほど、ひとりの男性を愛しました”なんて…… 浜崎あゆみ「M」

ドラマ『M 愛すべき人がいて』は新型コロナウイルスの影響下により、撮影スケジュールが滞っているため、第4話の放送延期が告知されている。……まりあとってもかなしいです。

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