鈴木愛理、predia、=LOVE、神宿、EMPiRE……K-POPトレンドがもたらすJ-POPアイドルの形|「偶像音楽 斯斯然然」第39回

鈴木愛理、predia、=LOVE、神宿、EMPiRE……K-POPトレンドがもたらすJ-POPアイドルの形|「偶像音楽 斯斯然然」第39回

冬将軍

音楽ものかき

2020.09.12
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アイドルファンもよく口にする“K-POPっぽさ”とは何なのか? 今回、冬将軍が鈴木愛理、predia、=LOVE、神宿、EMPiREらの楽曲構造やビジュアル、プロモーションを分析し、“J-POPの中で醸し出されるK-POP感”の正体に迫る。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

以前、<今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違>と題し、K-POPとJ-POPの違いについて触れた。世界的なポップスのトレンドとして、“サビらしいサビ”が存在しない(そもそもサビの概念がJ-POP的である)ということを踏まえ、“メロディが弱く、リズムも単調で印象に残りづらい”、“物足りなさを感じる楽曲の長さ”という、一見マイナスを思わせるポイントを逆手に取ったプロダクトなどを挙げた。

上記記事内でも例に出しているが、TWICEのアルバムリード曲「MORE & MORE」と日本向けシングル「Fanfare」を比べれば、その違いは瞭然だろう。

TWICE "MORE & MORE" M/V

TWICE 「Fanfare」Music Video

しかしながら、これはどちらが優れているというわけではなく、国内だけで成立する日本の音楽市場と海外に販路を見出すしかなかった韓国との違い、日韓の音楽マーケティング戦略による違いによるものだ。

日本におけるK-POP人気はいうまでもないが、それが実際どういう影響をもたらしているのか。アイドルファンの中でもよく“今度の新曲はK-POPっぽい”などという声を耳にすることがあるが、その場合、実際は何かが似ているわけではなく、ちょっと大人びたダンス曲だとそう言われることが多いように思う。これはあれだ、ひと昔前の“R&Bっぽい”と同じように語られている。言葉だけが形骸化しているわけだ。

しかしながら、先述記事でNiziUを例に取り上げたように、“符割りに見合った無理のない言葉数と柔らかい語感”がその印象をもたらしていることも事実。

そこで今回はNiziUやIZ*ONEのように“日本人がK-POPをやる”といったものではなく、“K-POP意識のJ-POP”という趣を感じられる曲について、楽曲自体の構造やビジュアル、プロモーションといったさまざまな要素から考えてみたい。とはいえ、K-POP=世界のトレンド、となりつつあるために、それを偏にK-POP意識としてしまうことは難しい部分もあるわけだが、見方の1つとして考えてもらえれば幸いである。

まずは先日“2020年夏を盛り上げる攻めに攻めた曲”として取り上げた=LOVE「CAMEO」。

=LOVE「CAMEO」J-POPによる見事なK-POP咀嚼

=LOVE(イコールラブ) / CAMEO DANCE&LIP ver.【MV full】

得体の知れない中華風味を醸す80s’ハウス、オリエンタルな雰囲気が謎の中毒性を誘う。冒頭からの符割りに沿った無理のない言葉数と柔らかい語感。“女の子は”を“おん/なのこは”とする区切り方や“ス→リ→ル”の符割りは日本人発想ではあまりやらない手法。古典的なボーカルディレクションに則ってみれば、綺麗な響きとは言い難い切り方である。サビの“気付いてる?気づいてる?”の語尾の処理、猫撫で声っぽい上げ方、ぬらっとしたアンニュイな響きを持つサビもJ-POPにはない独特の聴き心地。MVの作りも、色合い、メンバーのオルチャンメイクも相まってK-POP意識の雰囲気を醸している。それでいて決して“かぶれ”ているわけでないのが、この楽曲の面白いところ。Cメロに歌い上げのパートがしっかり入ることによって、日本のアイドルグループとしてのポップ性を高らかに示す、という隙のなさである。

TWICEやIZ*ONEが海外向けと日本向けで楽曲を変えるように、日本ではわかりやすさが求められる。メリハリ、ワビサビ、といった緩急と盛り上がりが人気に繋がることが多い。であるから、高低差のないメロ、淡々とした楽曲構成、というトレンドを取り入れるも、サビらしいサビを用いない替わりに、CメロないしDメロに楽曲のピークを持ってくる、というわけだ。

トレンドを用いながらJ-POPらしさを持ち込んでいるといえば、聴けば聴くほど面白いのがprediaだ。

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