鈴木愛理の二面性と、神宿にでんぱ組.inc…清 竜人が書く女性ヴォーカル曲としてのアイドルソング♡｜「偶像音楽 斯斯然然」第13回

女性ヴォーカルのうまみを熟知した清 竜人

さて、話題は変わりまして。

神宿「グリズリーに襲われたら♡」

最近気になった曲、神宿「グリズリーに襲われたら♡」。ミュージカルテイストな楽曲展開が実に楽しい。アキバっぽい電波ソング感を放ちつつも、あざとさで誘引してくるフックはさすが原宿発のグループといったところか。このガーリーでファンタジーたっぷりな作風は、はて、どこかで？と思ったら、清 竜人作曲ということで納得。

清 竜人といえば、最近でんぱ組.incに楽曲提供していたっけ。

でんぱ組.inc「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」

でんぱ組.inc「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」は、難解な言葉の羅列とジェットコースター展開でまくしたてる情報量のすさまじい曲。でんぱ組.incの持つごった煮感を、さらに煮詰めてこねくり回したようなやりたい放題っぷりが中毒性を誘う。

タイプの異なるこの2曲、秋葉原と原宿、という真反対のガーリー文化による清 竜人流解釈、という見方をしても非常に面白い。

清 竜人といえば、作品ごとに変化する作風とビジュアルの、つかみどころのないシンガーソングライター。ファンと聴き手を煙に巻いていく様はトリックスターなんて言葉が似合う。変幻自在の音楽性は、音楽理論や理屈ではなく、思うがままに天性で創り上げていくアーティストだからこそ生み出されるものだと思っている。特徴的なのは、生真面目さとハズし方、シリアスとウィットのバランス感覚が非常に優れているところだ。特に清 竜人25で見せた、自分が目立ちながら、周りの夫人たちを引き立てる業。初めて清 竜人25を観た者は“なんだこのインチキくさい男はっ!?”と思い、周りの夫人たちに惹かれていくだろう。しかしながら、結局最後にはみんな“清 竜人すげぇ！”となってしまうのだから、完全に思うツボである。

清 竜人25「Mr.PLAY BOY…♡」

“その手があったか！”と誰もが膝を打ったのではなく、“それはアリなのか？”と誰もが首を傾げた一夫多妻制。普通の感覚でいえば、男性ファンから見ても女性ファンからも見ても、誰も得しないであろう“ハーレム状態”はアイドルグループでの禁じ手であり、清 竜人だからこそ成り立たせることができたもの。そこには当人のヴォーカリストとしての実力とフロントマンとしてのカリスマ性は、もちろん大きいのだが、なにより女性ヴォーカルのうまみを熟知しているところだと思っている。

清 竜人25「ラブ♡ボクシング」

清 竜人＜ハーレム♡フェスタ2014＞ライブ映像

竜人のハスキーボイスに茶々入れのように入るキュートな夫人たちの声は、時に寄り添うように重なる艶めいた甘い声で響く。男性ヴォーカルと女性ヴォーカルの対比、間合いが絶妙だ。

清 竜人25同様、自分以外の出演者がすべて女性、という主宰イベント＜ハーレム♡フェスタ＞は、その話題性よりも、女性ヴォーカルの魅力を熟知し、そこに可能性を感じているからこそのものだろう。それは、先述の神宿やでんぱ組incを筆頭に、ももいろクローバーZから、田村ゆかりや堀江由衣という声優アーティストまで、清 竜人が楽曲提供しているものの大半が女性アーティストということがそれを物語っている。

上坂すみれ「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」（2019年）

アーティストによるアイドルへの楽曲提供は話題性、意外性はもちろん、そのカラーがどう化学反応を起こすのかが面白いところ。そうした中での清 竜人によるアイドル提供曲の差異、女性ヴォーカルならではの楽曲とメロディに今後も注目である。楽曲タイトルに「♡（白抜きハート）」があったら要チェックだ。