BAUHAUSからZOC、悲撃のヒロイン症候群まで 深淵なるゴシックの世界から覗くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第11回
BAUHAUSからZOC、悲撃のヒロイン症候群まで 深淵なるゴシックの世界から覗くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第11回
これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
アイドルとゴシック
さて、ここでアイドルとゴシックの関わりである。2008年にデビューしたHANGRY&ANGRY。元モーニング娘。の吉澤ひとみと石川梨華によるこのユニットは、h.NAOTOとのコラボレーションによる“ヴィジュアル系女性ユニット”として誕生した。妖艶な衣装とメイクを施したビジュアルは、ロックテイスト溢れる楽曲とともにアイドルとアーティストの隔たりがまだ大きかった時代に、大きなインパクトを残した。
HANGRY&ANGRY「Kill Me Kiss Me」
デザイナー・Gashiconによる“グロカワ”キャラクターであり、当初その正体が吉澤・石川であることは隠されていた、HANGRY&ANGRY「Kill Me Kiss Me」(2008年)
その後、俗に言われる“アイドル戦国時代”へと突入するわけだが、黒髪清楚信仰の強かったこの時代にゴシックのアイドルはまだほとんど存在していない。ただ、楽曲単体やテイストとして取り入れているグループは見かけた。遡ること2003年にエイベックス台湾よりデビューしたシンディー・ワン(王心凌)の「HONEY」(2005年)は軍服女子の先駆けであったし、SUPER☆GiRLSのナポレオンジャケットやマタドール風の衣装はゴシック基調ながらアイドルらしい華やかさと高貴な雰囲気を打ち出したものであった。
SUPER☆GiRLS「赤い情熱」
真っ赤なマタドール衣装が映える、SUPER☆GiRLS「赤い情熱」(2012年)
SUPER☆GiRLS「赤い情熱」をはじめ、少女から大人への成長を嗅ぐわせる東京女子流「Bad Flower」、本格派ゴシックのAKB48「UZA」、宝塚歌劇テイストたっぷりのBerryz工房「ROCKエロティック」など、2012年頃にゴシック調のMVが多く発表されていることが興味深い。
東京女子流「Bad Flower」
ヘヴィサウンドと艶っぽさを打ち出した、東京女子流「Bad Flower」(2012年)
AKB48「UZA」
スモーキーアイメイクを通り越した目の周りを黒くしたメイクと衣装のみならず映像の世界観までゴシックだった、AKB48「UZA」(2012年)
Berryz工房「ROCKエロティック」
男装の麗人と優艶な淑女の絡みにファンならずとも多くの者が悶絶した、Berryz工房「ROCKエロティック」(2013年)
そして、このシーンに欠くことのできないグループが一躍名を馳せたのもこの頃。そう、BABYMETALである。ありそうでなかった“アイドルとメタルの融合”は、幅広いロックファンの琴線に触れた。ゴシックやメタルの持つ悪魔的なダークイメージを、メロイック・サイン(海外では“コルナ”)ならぬ、“キツネ様”というユーモアのあるファンタジーに昇華したことも、オリジナリティとして海外人気に繋がったことは言うまでもあるまい。
BABYMETAL「ヘドバンギャー!!」
ゴシックテイストのビジュアルながら“黒髪”という日本のアイドルの象徴を大きく掲げる、BABYMETAL「ヘドバンギャー!!」(2012年)
現在ではメタル、ラウドロックなど激しくヘヴィなサウンドを武器とするグループがシーンの一翼を担っている。ダークでゴシックな雰囲気を漂わせるグループも増えてきており、新時代の到来を感じさせる。
アンダービースティ「ARCADIA CAT」
カタカナとひらがな表記で、“ヴィジュアル系ロック”と“超王道系アイドル”を使い分けている、アンダービースティ「ARCADIA CAT」(2018年)
BLACKNAZARENE「officialfake」
「THUG(ヒップホップなどで使われる“悪”の意)× kawaii」をコンセプトに掲げる、BLACKNAZARENE「officialfake」(2018年)
ただ、たとえ負をモチーフとしながらも、後ろ向きでネガティヴな姿勢ではなく、どこか前向きで希望を与えてくれていることが、アイドルという存在の尊さを放っている部分である。天上の煌めきと深淵の闇は相反するようでどこか通じるものがあるのだ。
ZOC「family name」
引きこもり、ヤンキー……という異色な出自と大森靖子の痛切な詞が相まって胸を抉る、ZOC「family name」(2019年)
アイドルに興味のなかった熟年の音楽ファンが、アイドルにハマっていく。それはかつてのアイドルブームを象徴するものだった。しかし、多種多様性を帯びていく中で若いアイドルファンも増えた。かつて、フォークシンガーやパンクロックバンドが“若者の代弁者”として崇められたのと同様、アイドルもそういう存在になってきているのだと思う。
“弱ってるときに聴くアイドルソングは麻薬——”なんて言葉もあるが、その本質は今も昔も変わってはいない。ただ、その入口が増えてきているのである。
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