冬将軍×Pop’n’Roll編集長が振り返る連載50回の軌跡「エッジィでキャッチーなコラムでありたい」｜「偶像音楽 斯斯然然」第50回「偶像音楽 斯斯然然」第50回

“エッジィでキャッチー”でいたい

鈴木：
さて、今回この対談にあたって、これまでのPVランキングベスト10を出しました。この第1回目の記事は2番目によく読まれています。“エッジィ”というのがポイントですよね。

1位　LOVE 野口、神宿 塩見、BiS ネオ……「偶像音楽 斯斯然然的 スゴいボーカリスト10人」［第43回］

2位　ラウドならずともエッジィ！ ロックな新進気鋭アイドル5選［第1回］

3位　NiziU、TWICEに見るK-POPプロデュースの業 「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」［第34回・前編］

4位　津野米咲の稀代な作家性と、≠ME、PIGGS、群青の世界……期待の可能性 5選［第42回］

5位　BABYMETALによるメタルの可能性と、我儘ラキアが提示するラウドなアイドル像［第44回］

6位　エビ中と夢アド、さまざまなアーティストから楽曲提供を受けるアイドルの到達点［第22回］

7位　BILLIE IDLE、夢アド、LADYBABY……解散、休止、卒業、アイドルがラストへと向かう時［第17回］

8位　鈴木愛理、predia、＝LOVE、神宿、EMPiRE……K-POPトレンドがもたらすJ-POPアイドルの形［第39回］

9位　10代ロックファンにとってのアイドル、楽曲派ロックおやじが口にする「アイドルの枠を超えている」［第26回］

10位　PINK CRES.にIZ*ONE……J-POPとK-POP、トレンドは「サビがない!?」［第3回］

冬将軍：
“エッジィで、かつキャッチー”なものが好きですね。この連載でも何度か触れているんですけど、“ポップならずともキャッチー”というのが、私がレーベルでディレクターやっていた頃から制作に対する趣向として肝に銘じていたことでもあって。それがそのまま自分の音楽嗜好にもなっています。“ポップ＝大衆性”と“キャッチー＝覚えやすい”は違うんだぞということ。これはhide氏から学んだことでもあるんです。リスナーに媚びる必要性はないけど、マニアックなところを追求しすぎてもダメ。マニアックなことをやって、リスナーが勝手に解釈してくださいっていうのは簡単なんですよ。ではなくて、キャッチー性の耳馴染みとマニアックさをどう共存させていくか。そして表現者としては“エッジィ＝先鋭的、尖端的”であるべき。これらはロックにおいての話ですけど、私はロックもアイドルも同列に見ているので、基本は同じなんです。やっぱりわかりやすくも“攻めてるな！”と感じるグループが好きですね。

鈴木：
冬将軍さんって、アイドルとは全然違うところからの出身で。僕自身もそうだから、その視点で面白いところを書くことによって、アイドルに興味がない人にも広がっていくんじゃないのかなって思うんですよ。この連載が新しい音楽との出会いの場になるというか。それこそ僕も、冬将軍さんが紹介している曲を初めて聴いてカッコいいと思うこともあるから、そういう場を提供していきたいという想いはあります。

冬将軍：
それが書き手としてしては1番嬉しいところですね。鈴木さんはバンド雑誌の編集者だったし、自分はバンドの制作側の人間だった。編集者とライターという立場ではLUNA SEAをはじめ、ちょっと大変な（？）現場を一緒にやったりもしてきたじゃないですか。そこでお互いの仕事っぷりは知ってるし。今度はその対象がアイドルになった。お互い好きな音楽は違うけど、アンテナというか琴線に触れる部分は似ていると思うんですよね。好き嫌いではなくて、面白いと思うかどうかの感性が。

鈴木：
そうなんですよね。細かく言うと、好みのジャンルは違う。でも、面白いことに対する感性は共通している。“エッジィでキャッチー”は、まさにそれですね。

冬将軍：
書き手としても“エッジィでキャッチー”でいたいです。感性は常に研ぎ澄ましていたいし、その最たるアウトプットがこのコラムでもあります。新しい音楽を紹介するにしても“これがいいから聴け”じゃなくて、“こういうのが好きな人、絶対どこかにいるでしょ？”っていう、ニッチな探りが面白くて好きなんですよ。強要してるわけではない。それは持論を語る時もそうで、“私はこう思うけど、みなさんはどう？”っていう投げかけであったりする。押し付けがましくなっちゃうと、なんか違うから。

鈴木：
音楽って好みでしかないと思っていて。食べ物で例えると、とんこつラーメンが大好きな人に醤油ラーメンを勧めてもダメなんですよ。さらに、その日の気持ちのモードもあるから、今日はとんこつラーメンな気分だけど、明日は塩ラーメンになるかもしれない。もしくは、ジャンルが変わって、海鮮丼が食べたくなるというか……そういう風に、人の好みって変わると思っています。

冬将軍：
それ、こないだ怒髪天の増子（直純/Vo）さんも同じこと言ってたなぁ。“カツ丼が食いたい時に、いくら美味い高級寿司屋に連れて行かれても困る”って。

鈴木：
そういうことですよね。この連載ではK-POPをよく取り上げてますけど、別に“聴け”とは言ってないじゃないですか。

冬将軍：
この連載において、K-POPは1つのテーマになってますね。第3回目から定期的に取り上げてますし。好き嫌いは別として、K-POPという大きいムーヴメントがあって、それによって日本の音楽シーンでも、さまざまなことが起こっているんだよというだけの話。

鈴木：
記事の反応を見ると、“自分の好きなグループがK-POPにカテゴライズされて嫌だ”という声もあって。その気持ちはわからなくはないんですけど……。もし、そこで比較として挙げたのが、例えば欧米のトップEDMアーティストだったら、どういう反応になるのかな？とは思います。

冬将軍：
極端にK-POPを嫌う人はいますよね。別にK-POPを好きになれ、と言ってるわけではない。K-POPは人気があって影響力も大きい。それを知ることで、あなたの好きなグループの音楽を聴くことがより楽しくなるかもよっていう、気づきを与えられたらいいなと思ってます。

鈴木：
そういうポイントも面白がっていただけたらいいですね。

1位　LOVE 野口、神宿 塩見、BiS ネオ……「偶像音楽 斯斯然然的 スゴいボーカリスト10人」［第43回］

鈴木：
アクセス数、第1位はぶっちぎりで「スゴいボーカリスト10人」でした。ここまで反響あると思ってました？

冬将軍：
賛否両論覚悟で選びましたからね（笑）。“◯◯が入ってない、やり直し”みたいなのがたくさん来るかなって。でも実際蓋を開けてみれば、みなさん好意的に見てくれていたようでよかったです。

鈴木：
キュレーションもそうですけど、こういうものを選ぶ際の基準は？

冬将軍：
単純に自分が面白いと思ったかどうかですね。ただ、幅は常に意識してるかな。知名度関係なく、分け隔てなく。WEBは欲しい情報だけに特化しがちだけど、雑誌のような偶然の出会いみたいなものは大事にしたいんですよ。この記事も、＝LOVEがいてBiSがいて神薙ラビッツがいるって、普通ありえないじゃないですか。だけど、闇雲に選んでるわけでもなくて、インパクトと意外性を出しつつも関連性を見出しています。読者が全部を読んでくれているかどうかはひとまず、おいておいて。わかる人はわかる、みたいな。

鈴木：
一見違うものだけど、ある共通点に気づいた時や、それが繋がった時の楽しさっていうのがあるんですよね。自分自身は、映画、アニメ、小説、音楽など、どのジャンルでも情報量が多い作品に惹かれるっていう共通点があって。だから、その昔、速弾きの教則本をずっと作ったりしていたんですが（笑）。音楽だけにしても、そういう共通項が見えたりすると、より楽しめるようになると思っています。