hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回

hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回 「偶像音楽 斯斯然然」第54回

冬将軍

音楽ものかき

2021.04.10
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実は何かと共通点が多いヴィジュアル系とアイドル。ライブハウスからドームまで、ヴィジュアル系バンドの制作ディレクターを務めていた冬将軍が、今回その2つのジャンルの音楽面での関連性を多種多彩な切り口で綴る。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

4月6日(火)放送のTBS系『マツコの知らない世界』のヴィジュアル系特集。番組内で飛び出した言葉、“日常を闘うために非日常を愛してる”……まさにこれこそが真理であり、非日常のベクトルは違うが、アイドルも同様である。

ヴィジュアル系とアイドルは日本独自の文化でありつつも、どこかメインストリームにはなりきれないカルチャーであったり、愛が深すぎるファン真理であったり、表現こそ違えど、共通する部分は多い。私が以前ヴィジュアル系バンドの制作ディレクターをやっていた時のこと。楽曲制作を突き詰めるあまり、ほかの制作予算(衣装、MV制作費)を削減してレコーディングに回そうとした。すると、上から“衣装とMVに金を掛けられないならヴィジュアル系やめちまえ”と怒鳴られてしまった。そこでハッとした。そうなのだ、単純に音楽を突き詰めたいのであれば、ヴィジュアル系である必要はない。これはアイドルも同じだろう。音楽を大事にすることはもちろんだが、同様に衣装やMVといった見せ方、そしてライブだけではなくファンとの交流を目的とした特典会といったものまで含めた、総合芸術のエンタテインメントだからだ。

であるから、ヴィジュアル系のノウハウをアイドルに投影するパターンも多い。実際、ヴィジュアル系バンドマンや事務所の人間がアイドル運営をやっていることは珍しくない。有名どころでいえば、DIR EN GREYやメリーが所属するサンクレイド(フリーウィル)所属の2o Love to Sweet Bullet、フリーウィルに所属していたバンドSPEED-iDのボーカル、EUROがプロデュースするXTEENなどがいる。ファッションを含めた見せ方に関しても、黒服、ホラー、というゴシックテイストであったり、ヴィジュアル系と共通する世界観を取り入れることはよく行なわれているし、直接的に“ヴィジュアル系ロックアイドル”を謳うグループもいる。BABYMETALも、過去にX JAPANをオマージュするなど、メタルヘッズのみならず、ヴィジュアル系ファンの注目を浴びた。

DIR EN GREYの放送禁止MVなど、数多くの問題作を手掛けてきたVISUALTRAPの近藤廣行氏による 2o Love to Sweet Bullet「そこで叫んで私に教えてほしい」(2017年)

意外にも(?)共通項の多いヴィジュアル系とアイドル、音楽面での関連性はどうだろうか。ヴィジュアル系を通ってきたアイドルヲタク、アイドルに興味あるけどいまいち踏み込めないヴィジュアル系ファンやバンギャ……そんな人たちのためにも、改めて考えていきたい。

ヘヴィミュージック、ラウドロックというトレンド

現在、ロックアイドルと呼ばれる中で一翼を担っているのはラウドロックだ。特にここ数年はダウンチューニングが加速し、メタリックなサウンドとEmo影響下の突き抜けていくメロディを多用することが多い。それは昨今のヴィジュアル系シーンの動きと共通するところでもある。ラウドロックは和製英語であり、日本独自に発展を遂げている音楽であるため、世界が羨む日本の代表的なカルチャー、ヴィジュアル系とアイドルがそこに向かっているのは必然であるかもしれない。Cazqui(ex.NOCTURNAL BLOODLUST/猫曼珠)のような、Jヘヴィミュージックの最先端を担うギタリストがアイドル楽曲に多く携わっていることも自然な流れとも言える。

Cazquiは、miscastをはじめ、LADYBABY、NEO JAPONISMなど多くのアイドルへの楽曲参加、コラボを果たしている

鶯籠のメジャーデビューシングル「FLY HIGHER AGAIN」(2020年)を手掛けたのはex.ViViDのギタリスト、RENO

ラウドロックアイドルの台頭は、ハードロックやメタル、そしてジェントといった洋楽方面からの影響下もあるだろうが、やはりBABYMETALやPassCodeの飛躍が大きいだろう。特にPassCodeフォロワーというべき、転調や変拍子といった複雑な楽曲展開を多く用いるグループも少なくはないのだ。DTM上で制作されることの多いアイドル音楽では、バンドサウンドを用いながらも演奏技術を考慮せずに難易度の高い楽曲を作ることが可能だからだ。生バンドのセッションでは絶対に生まれないロックナンバーというのは、アイドルならではの発展なのかもしれない。複数ボーカルだからこそ生まれるメロディの作り方は、普通のロックバンドではできないはずだ。

Seize Approaching BRAND NEW ERA (PassCode STARRY TOUR 2020 Final At KT Zepp Yokohama)
PassCodeの複雑で緻密な楽曲はアイドルだからこそできるものの典型だろう

反面で、ストレートにバンドの生演奏感を重視するグループも多い。ここから掘り下げていくのはそっちの話だ。

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