hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回

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hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回「偶像音楽 斯斯然然」第54回

実は何かと共通点が多いヴィジュアル系とアイドル。ライブハウスからドームまで、ヴィジュアル系バンドの制作ディレクターを務めていた冬将軍が、今回その2つのジャンルの音楽面での関連性を多種多彩な切り口で綴る。

成熟と新たな息吹がもたらした多様性

ハロー!プロジェクト所属のBerryz工房は、2004年の結成当初はモーニング娘。の妹分という立ち位置であったが、不動のメンバーであったがために気がつけば平均年齢では姉を追い越した。加えてキャリアとともに楽曲の方向性もどんどん広がっていったのである。そして、2013年に衝撃の問題作「ROCKエロティック」をリリースした。

男装の麗人な役回りも百戦錬磨のBerryz工房だからこそ成せたもの
Berryz工房「ROCKエロティック」(2013年)

マイナーメロディにドラマティックな楽曲展開という前述の2つの要素を含みながら、当時のつんく♂がよく取り入れていたEDMであるが、モーニング娘。では正攻法にダンスミュージックとして扱っていたのに対して、同曲ではロックナンバーに掛け合わせている。特にイントロは、当時海外で話題となったKORNとSkrillexのコラボを彷彿とさせた。宝塚チックなMVの作りは、耽美性も感じられ、ヴィジュアル系好きの間でも話題になった。Berryz工房および、ハロー!プロジェクトにおいてロックナンバーはこれまでも存在していたが、あくまで“ロック調”であり、ロックアイドルを標榜していたBuono!であっても、“アイドルソングのロックアレンジ”という趣で、ここまで硬派に寄せたものではなかった。

Berryz工房はもともと、ハロー!プロジェクトの中でもつんく♂の実験的な要素が大きく投影されるグループであったが、こうした楽曲ができるのは長年の経験となによりも、少女から大人へ変わっていったグループの成熟があったからこそのものだ。

そして新たな息吹として、外せないのはやはりBiSだろう。その破天荒な活動は言わずもがな、音楽においてもアイドルにもたらした可能性は計り知れない。現在、当たり前のようにロックアイドルがシーンを賑わせているのも、BiSの登場なくしてはあり得なかった、と言い切ってしまってもいいだろう。

アイドル戦国時代と呼ばれた中で、楽曲、パフォーマンス、行動、すべてにおいて“アイドルとは?”を問いかけていた
BiS「IDOL」(2012年)

BiSのサウンドプロデューサー、松隈ケンタの作る楽曲にはロックファンの琴線に触れるところが多くある。それは、直接的にヴィジュアル系ファンとは言わないまでも、ロックに興味を持ったきっかけがBUCK-TICKだった、初めて買ったギターorベースがLUNA SEAモデルだった、といった層にバシバシ響くのだ。

オリエンタルなギターリフと泣きメロ、小気味よい楽曲構成はメリーや9mm parabellum bulletあたりを想起させる
BiS「I can't say NO!!!!!!!」(2017年)

最近の若い世代はBiSHにロックの初期衝動を感じることが多いわけだが、ヴィジュアル系解釈で見ればBiSの方がその要素は強い。具体的なものとしては、歌メロ、ギターリフともに松隈が多く用いるオリエンタルな節回しと、なだらかな山を駆け上がりながら一気に削り落としていくようなエモーショナルなメロディである。

過去曲を封印している現在の第3期BiSだが、基本的な音楽スタンスは変わっていない
BiS「STUPiD (NEW TYPE Ver.) 」(2019年)

そういう意味でも松隈は、“アイドルシーンに革命をもたらした”と言っていいのだが、先日インタビューで松隈本人にそのあたりの話を訊いたところ、意外な答えが返ってきた。

「僕は“アイドル界に革命を起こした”みたいに言っていただくんですけど違うんです。それを言うならむしろ、“ロック界に革命を起こした”んだと思います」

要は、“ロックのセオリーを知らない女の子に、ロックをやらせてみたら見事にハマった”ということだという。意外ではあったが、考えれば考えるほど妙にしっくりきた。

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