hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回

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hideからBiS、BUCK-TICKからMIGMA SHELTERまで ヴィジュアル系ロックで紐解くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第54回「偶像音楽 斯斯然然」第54回

実は何かと共通点が多いヴィジュアル系とアイドル。ライブハウスからドームまで、ヴィジュアル系バンドの制作ディレクターを務めていた冬将軍が、今回その2つのジャンルの音楽面での関連性を多種多彩な切り口で綴る。

ヴィジュアル系の音楽構造

以前、当コラムでBUCK-TICKファンがMIGMA SHELTERおよびAqbiRecのグループに惹かれていった話を取り上げた。アイドルに無縁だった彼女はなぜ惹かれたのか。

特定なものではなく、サウンドや楽曲、ステージから醸し出す雰囲気といった複数の要因による感覚的なものが大きい。ヴィジュアル系ファンが好きそうな匂いを放っている、というべきもの。そうしたアイドルというのは、実際多くいる。

そこを紐解くには、まずヴィジュアル系の音楽構造を知らねばならない。そもそもヴィジュアル系とは音楽ジャンルではないのだが、パブリックイメージとしての“それっぽさ”は存在する。ただ、2000年代のネオ・ヴィジュアル系の隆盛以降は多様性が増し、さらに近年はなんでもあり状態になってしまっているので、ここでいう“それっぽさ”は90年代のヴィジュアル系および、その黎明期にあたる“黒服系”と呼ばれた時代の根幹的なところでの話である。本稿で以下扱う“ヴィジュアル系”とは、そういった90年代ヴィジュアル系を軸に話を進めていく。

そうしたヴィジュアル系の音楽発展を具体的なバンドを例に挙げて説明するのなら、まず土台としてBOØWYがこれまであったHR/HMやパンクでもなく不良的なものでもないビートロックを確立し、人より目立つためのロックからカッコつけるためのロックへと変貌させた。そこにBUCK-TICKがダークな耽美性を与え、LUNA SEAが慟哭性の高いメロディと、ブレイクやトメといったバンドアンサンブルの妙を提示した。そして海外の前衛的なマニアライクな部分をhideがキャッチーに噛み砕いた、と個人的には考えている。

そこを踏まえてヴィジュアル系の音楽構造を要約すれば、

1.耽美、退廃美の世界観
2.刹那的な詞
3.慟哭性のあるマイナーメロディ(泣きメロ)
4.緩急のついたドラマティックな楽曲展開
5.ポップならずキャッチー


といったところだろう。1〜4は説明しなくとも大丈夫だと思うが、5の“ポップならずキャッチー”というのは、“ポップ=大衆性”と“キャッチー=覚えやすい”はまったく別だということである。大衆性、万人受けを狙わなくとも覚えやすいものは作れるということだ。現にhideの「ピンク スパイダー」は、ポップとはほど遠いゴリゴリのヘヴィミュージックであるにも関わらず、サビの“ピンクスパイダー「行きたいな」”というキメフレーズは1度聴いただけで覚えられるし、老若男女、歌唱力問わずに誰でも口ずさむことができるキラーフレーズである。でなければ、あの事故の影響は別としてもミリオンヒットを出すことなどできなかったはずだ。

hide with Spread Beaver「ピンク スパイダー」

しかしながら、アイドルには元来ヴィジュアル系音楽構造の要素(特に1〜3)はないものだ。同じ非日常とはいえ、退廃的なヴィジュアル系とは真逆で、アイドルはハッピーオーラを振り撒くものである。現にアイドル戦国時代と呼ばれ始めた2010年あたりを境に多くのロックファンがアイドルにハマっていったわけだが、多くの場合、ロックの脈略では得ることのできない幸福感を求めていたはずだ。実際、私も当時はそう思い、“ロックとは別腹”感覚でアイドルを聴いていた。マニアライクな音楽を好んでいた人ほど、キラキラとしたポップス直球のアイドルソングに惹かれていく傾向もあった。だが、そう思って聴いていたアイドルソングであるのに、数年経ち、気がつけばアイドルソングによって、再びマニアライクな音楽趣向に引き戻されていたのである。

そこにはさまざまな新しいグループの登場により、アイドルに多様性が生まれていったことが挙げられるわけだが、既存グループの成熟ということも大きい。

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