コロナ禍がもたらしたもの、アイドルだからこその新たな可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第81回

コロナ禍がもたらしたもの、アイドルだからこその新たな可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第81回

冬将軍

音楽ものかき

2022.04.23
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新型コロナウイルス感染症は、アイドルに大きな影響を与えている。

コロナ禍以前のような活動ができず、困難な状況に陥っているグループがいる一方、この難局の中でも新しいアプローチを試みて、アイドルエンタテインメントの可能性を押し広げているグループがいるのも事実だ。

今回は、改めて新型コロナウイルスがアイドル界にもたらしたこと、またその中でも試行錯誤をしながら新たな展開を見せているいくつかのグループの活動を紹介する。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

26時のマスカレイドが、活動開始から6周年の節目となる今年10月30日をもって解散すると発表した。

26時のマスカレイド公式Twitterより

“コロナ禍で思うような活動ができず、”の一文にいろいろ考えさせられるものがある。コロナ禍は多くのアイドルグループにとって良くも悪くも大きな転機となったわけだが、ライブ状況としては比較的上向きになっている現況での解散の選択。もちろん直接的な要因ではないことは承知の上であるし、マイナスの解散であることではないこともわかってはいる。しかしながらちょうど、真っ白なキャンバスが郊外であるがコール&レスポンスの解禁したフリーライブ発表と重なったこともあり、それぞれの選択を考えさせられる。

真っ白なキャンバス公式Twitterより

ディスタンス下のライブがもたらしたもの

最近、非日常が日常になったこのディスタンス下のライブ状況について改めて考えることがある。慣れとは恐ろしいもので、かつてライブハウスのフロアで見ず知らずの人間がぎゅうぎゅうにひしめき合って、ライブを観ていたことなど思い出せなくなってきている。個人的には、現在のこのじっとライブを観るスタイルになんら不満はなく、むしろ快適さすら感じているくらいだ。しかしながら、演者はどうだろうか。思い描いていたアイドルとは違う世界に来てしまったと考えることも多いだろう。コールを聞いたことのないアイドルも増えてきた。

私は職業柄、いろんなアイドルやアーティストに取材をする機会も多いわけだが、こうした現況のライブ状況について、フロアからの歓声がもらえない寂しさがある反面で、表現者としての自覚が増したという声をよく聞く。歌やダンスにおけるパフォーマンススキルを見つめ直す機会になった、ライブができるありがたみを知った、ライブ中にお客さん1人ひとりの顔がよく見えるようになった……などなど。

アイドルではないのだが、とあるシンガーソングライターの言葉が印象的だった。

“自分の歌を歌うことってこんなにも大変だったんですね。どれだけ今までみんなに歌ってもらってきたんだろう……”

シンガロング、コール&レスポンスのないライブで気づいた、歌を歌うことの意味。アーティストが歌に対する責任を表した言葉だ。ほかにも、“自分の歌をみんなしっかりと聴いてくれていると感じるようになった”と答えたアーティストも多くいた。そうやって、コロナ禍にならなければ気づけなかったことがたくさんあったのも事実である。

アイドルのライブもステージとフロアが一体になり、コールをし、シンガロングしていく、熱ともどもに作り上げることが醍醐味だ。その象徴である“声援”が失われた空間で在り方は様変わりした。

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