BiS、美味しい曖昧、situasion 尖ったギターが迫り来るロックアイドルの新譜|「偶像音楽 斯斯然然」第79回
冬将軍
音楽ものかき
-
ポスト
-
シェア
-
ブックマーク
今回は、BiS、美味しい曖昧、situasionという“エッジィで尖ったギターサウンドを武器とするグループ”の新譜3タイトルをピックアップ。ギターを主軸に、これらの作品が放つ先鋭性の正体を冬将軍が紐解いていく。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
当コラムでは、「ギターがカッコいいアイドルソング」を恒例としているように、ギターを注視している。
バンドではないとはいえ、バンドサウンドを武器とするアイドルも多くいるわけで、そのサウンドやフレーズは年々、いや日に日に多様化している。そうした中でも、やはりギターは楽曲やグループのカラーを表すことに大きく貢献している。
今回はそうしたギターに着目しながら、エッジィで尖ったギターサウンドを武器とするグループの新譜3タイトルをピックアップしたい。
BiS「DA DA DA DANCE SONG」 V-ROCK meets HARDCORE
5人になったBiS、新体制初のシングル「DA DA DA DANCE SONG」のリピートが止まらない。近年のロック感覚でいえば“ダンスロックチューン”というべきなのだろうが、オリエンタルなギターフレーズといい、畳み掛けるサビ、攻撃的だがひたすらにキャッチーという部分では、メリーやMUCCを感じるのは私だけではないはず。もともとBiSはWACKグループ、SCRAMBLES制作楽曲の中でもそういったネオヴィジュアル系風味の強いグループだったわけで。とにかく、猟奇的で最高のナンバーである。
BiS 新生アイドル研究会「DA DA DA DANCE SONG」
WACKグループのここ2〜3年でのギターサウンドの変化というのは何度か取り上げてきた。要はバリエーションが増えたのである。
BiSは初期から80’sハードコアライクな、のっぺりとしたいい意味でのチープなディストーションサウンドを武器としてきたが、現BiSになってからは、ハードコアライクなのは変わらずもミドルレンジに重心置いた図太いサウンドに変化しており、「DA DA DA DANCE SONG」では抜群の音抜けと太さを共存させたサウンドをかき鳴らしている。
カバーアルバム『BiS DiVE into ROCKS』があったことも大きいだろう。原曲に敬意を表しながら、バンドサウンドとアイドルの組み合わせに徹底的にこだわった作品である。
アイドルのロックバンドカバーというものは、正直運営ならびにプロデューサーの自己満足が大半であると思っている。ただそれは悪いことではなく、“アイドルがあの曲やるの!?”という、おっさんホイホイマーケティング含めて重要視すべきところだと思うし、アイドル当人たちの振り幅を広げること、ポテンシャルを引き出すには恰好である。ただ多くの場合、やはりオリジナルを超えられないということが問題であったりするわけだ。
『BiS DiVE into ROCKS』はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTにBLANKEY JET CITY、THE MAD CAPSULE MARKETS……という、原曲イメージが強すぎて誰も怖くて手を出せない偉大なるロックバンドの名曲群をカバー。加えてリスペクトを感じさせる原曲に忠実なアレンジ、という一歩間違えば大事故を起こしかねない正攻法で挑んでいる。しかしながら出来上がったものは、サウンドもボーカルも、トータル的に見て、アイドルをよく知らない原曲のバンドファンにも自信を持って薦められる、抜群にカッコいい仕上がりになっているのである。
BiS 新生アイドル研究会「スモーキン・ビリー」
以前BiSの4人のことを“四者四様な狂犬っぷり”と評したこともあるのだが、そうしたアブなさと危うさを持ち合わせたパンキッシュさ、アメリカのライオットガール的なパンクスピリッツを感じるのである。そんな4人の中に放り込まれ、もう既に馴染んでいるナノ3のポテンシャルに感服。
BiSというグループは暴走と迷走の歴史だと個人的には思っている。とはいえ、暴走も迷走もアイドルシーンにおけるエンタテインメントとしての1つの正しい形でもあるし、BiSの掟破りなその存在とインディーロックのアイドルアイコンとしての影響力は今さら説明するまでもないだろう。そもそもBiSの存在なくして、現在のロックアイドルシーン、多くのインディーアイドルの活躍はなかったと言い切っていい。
その上で、現在のBiSは単純に“第3期”とカテゴライズするものではなく、脈々と受け継がれてきた先人の“イズム”を昇華させながらも、過去の呪縛的なものとは程遠いオリジナリティを完成させていると言っていいだろう。