BiS、美味しい曖昧、situasion 尖ったギターが迫り来るロックアイドルの新譜｜「偶像音楽 斯斯然然」第79回

situasion『THE YEAR』　何層にも重ねられたサウンドコラージュ

situasion（シチュアシオン）は『ギターがカッコいいアイドルソング2022』で選んだ「1988」に見られる、ブリティッシュロック影響下の邦ロックからのポストロックアイドル、というイメージであったのだが、聴けば聴くほど知れば知るほど、そこだけに当てはまらないグループであることに気づかされる。

situasion「1988」

つい先日も＜アイドル甲子園 FUJISAN SPRING FES 2022＞で眼前に富士山を構える大自然の中で、轟音を鳴らしながら黒を纏った6人の少女たちが、暗黒舞踊さながらのコンテンポラリー感溢れるステージを展開していて、最高だった。

楽曲でいえば、ギシギシに歪んだベースがうなりを上げる「闇に関する報告書」、無機質で頽廃的なインダストリアルロック「樹海紀行」……といった深淵ナンバーがそういった怪しさを醸し出していくのだが、作曲者が違うのかと思ってみれば「1988」と同じく、磯野涼だった。

situasion「樹海紀行」

氏はこれまた以前に取り上げたが、夜光性アミューズの電波ソング「夜光性イントロデュース」などの作曲もしており、同曲におけるユーロビートながらもエレクトロビートの周りに生ピアノがいる、という斬新なアレンジと不思議な定位に驚いたものだが、どこまでも予想だにしない振り幅である。

3月16日にリリースされた『THE YEAR』は2021年にリリースした全楽曲のコンピレーションアルバムということで、現在のsituasionのすべてが収められている。「1988」のエッジの効いたカッティングギター、どこか和を感じる綺麗なエレクトロチューン「KAWARA GIRLS」といったポップが詰まっているものの、後半の無機的なビートが不穏さを誘う「embryo」からの暗黒な流れが絶品である。

situasion 2nd ONEMAN LIVE 「I would prefer not to」Shibuya Club Quattro 2021.12.27

イギリスのレーベル“4AD”好きが喜びそうな何層にも重ねられたギターも聴きどころのギターロックアルバムで、シューゲイズやドリームポップといったブリティッシュな香りを漂わせながらも、SUGIZOあたりの影響下も感じてみたりする。「I would prefer not to」のギターソロで昇天するのである。

situasion「I would prefer not to」