“ボカロっぽさ”とはなんなのか? DTMロックが作り出すアイドルの可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第71回

“ボカロっぽさ”とはなんなのか? DTMロックが作り出すアイドルの可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第71回

冬将軍

音楽ものかき

2021.12.04
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DTMをベースにした“ボーカロイド”というツールが、音楽表現の可能性を広げたことは間違いない。今回はそのボカロを主題に、ボカロ曲の特性や魅力を紐解きながら、昨今のアイドルとの結びつきについて、冬将軍が独自の視点で綴る。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

今をときめく“バーチャルYouTube”、VTuberシーンを牽引するホロライブプロダクション所属の“すいちゃん”こと、星街すいせい1stアルバム『Still Still Stellar』には、極上のガールポップ&ロックが詰まっている。

星街すいせい「Stellar Stellar」

TAKU INOUEに櫻澤ヒカル、齋藤大といった、共同作曲者としてアニメ/ゲーム界隈に携わっている複数のコンポーザーを迎え制作された本作。細かい説明は抜きに1曲目「Stellar Stellar」を聴けば、その第一声から一気に惹き込まれ、彗星のごとくまばゆい光を放ちながら美しく描く軌道のような旋律をなぞっていく歌声と、その壮大な世界観に飲み込まれてしまうことだろう。

星街すいせい「自分勝手Dazzling」

劇的な展開と絶妙な緩急のメロディが織りなすドラマティックさに、実はどこかのアニメの主題歌なんじゃないかと錯覚する「GHOST」、こういうジャジーでソウルでハイソなアニソンも80年代あたりにあったよね、とそんなことを考えた「バイバイレイニー」、ソリッドなリズムがたまらない近未来サイバーな「自分勝手Dazzling」、すいちゃんの圧倒的表現力と歌唱力の高さを前に、ただただひれ伏すしかない「Andromeda」などなど……、語り出すと止まらなくなるほどに圧巻な12曲。VTuberと侮るなかれ、女性ボーカルポップアルバムとしての大傑作、後世に伝えたい作品である。

こういった2次元的なアニメ・ゲーム寄りの世界をシーンとして捉えるのなら、その特性上はアイドルシーンと似たところも多いわけだが、音楽性を見れば少々異なる。アニソンに多く見られるドラマティックな楽曲展開や歌い上げメロディ、古くはジャパメタからヴィジュアル系に通ずる、駆け上がっていくマイナー調の音使いといった、いわゆる日本人が大好きな“泣きメロ”というものはアイドルソングには少ない。かつて歌姫として一世を風靡した浜崎あゆみに不思議とアイドルを感じなかったのは、プロモーション方法やたたずまいは別として、楽曲の方向性によるところも大きいだろう。

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