“ボカロっぽさ”とはなんなのか？ DTMロックが作り出すアイドルの可能性｜「偶像音楽 斯斯然然」第71回

“歌ってみた”の可能性

コロナ禍により、オンライン配信やネットでのコンテンツもアイドルエンタメにおいて主流となった。中でも“歌ってみた”は、本業とは違う楽曲を歌うことがボーカリストの振り幅の見せどころであるし、難易度の高い楽曲は歌唱力、表現力を広く知らしめるのにも恰好の題材だ。

最近『#歌ってみた甲子園』というコンテンツを見かけた。これ自体はアマチュアシンガーが競う企画なのだが、私が注目したのは虹のコンキスタドールの清水理子がゲストとして参加していることであり、さらには課題曲がDECO*27の「ヴァンパイア」という超難曲だった。

DECO*27「ヴァンパイア feat. 初音ミク」

「ヴァンパイア」はフェイク混じりのボーカルラインがhi-G#まで到達し、音符の高低差を自在に行き来する難解メロディが特徴的だ。その動きに正確な音程を合わせにいくことができるか、そしてファルセットを使えばいいのか地声のままがよいのかわからず、そもそも地声で出るのかという問題もある、と歌いこなすどころか歌うことすら躊躇う楽曲である。

遅ればせながら清水理子というとんでもないボーカリストのポテンシャルをこの夏に知ったことは、以前当コラムでも触れたわけだが、さすが、この「ヴァンパイア」を地声で見事に歌い切っている。

この曲を見事な歌声で歌い切るアイドルがもう1人いた。NEO JAPONISMの福田みゆだ。

みゅるん「ヴァンパイア」

音程を含めた音符の精確性もさることながら、小手先でメロディをなぞるだけでは表現できない、声色を自在に操る術に驚愕し、すべらかで妙な色っぽさを感じる声の艶にゾクゾクする。昨今は仮面ライダーサーベラの変身ボイスで注目を集めている福田であるが、“みゅるん”名義のYouTubeチャンネルでは毎週水曜日にボカロ曲に特化した“歌ってみた”動画をアップしている。NEO JAPONISMでは聴くことのできない未知なるボーカル力に注目である。

みゅるん「ハングリーニコル」

こうした背景を考えてみれば、ボカロPがいろんなアーティストやアイドルに楽曲提供をするのも自然な流れであった。