“ボカロっぽさ”とはなんなのか？ DTMロックが作り出すアイドルの可能性｜「偶像音楽 斯斯然然」第71回

ボカロっぽい曲とは？　DTMロック

以前、高校生にクレイジーキャッツの「スーダラ節」を聴かせたところ、“ボカロっぽい曲ですね”と言われ困惑したのだが、サビがないEDMであったり、打ち込みで早口のラブソングがヒットチャートを賑わせていることを考えれば、古典的な日本歌謡が持っているキャッチー性というものは、現代において非日常的な2次元的な存在として捉えられるのも不思議なことではないのかもしれない。

わーすた「大志を抱け！カルビアンビシャス！」（2019年）

実際にわーすたのみきとP提供曲には、古典的な日本歌謡テイストがふんだんに盛り込まれており、ボカロシーンにもこういった方向性があることが伺える。

わーすた「萌ってかエモ」（2020年）

ボカロっぽい曲というのは明らかに存在している。日本歌謡テイストもそうだが、独自の発展性といった部分を考えれば、DTM（デスクトップミュージック）上のバンドが作るロックとでもいうか、生バンドのジャムセッションでは絶対に生まれないオルタナティブロックがそれであるように思う。

00年代以降の4つ打ち系の速いダンサブルなビートに、カッティングギターが乗っかるオルタナティヴロック、そこにちょっとポストロックやマスロックの難解要素が入ったサウンドだろう。そこに退廃めいた叙情的なメロディが乗るわけだが、ちょっと字余り気味の詞であるためにボーカルが早口で前ノリになっていく。そういう意味ではPassCodeもDTMロックなのだが、ヘヴィラウドにはいかないのがボカロ流。UKポストパンクの系譜なのだが、そこに直結しているわけでなく、凛として時雨や9mm Parabellum Bulletといった邦ロック以降のサウンドでもある。

アイドルにおいて、そういったDTMロックバンドなボカロっぽい曲をやってると感じるのが、Payrin’sだ。

Payrin's「イドラホリック」

彼女たちの多くの楽曲を手掛けるキタニタツヤもボカロPとして活動していたし、名曲「イドラホリック」を作ったツミキは現在のボカロシーンにおける重要人物である。

ツミキ「トオトロジイダウトフル」

Payrin’sは当コラムの恒例企画になっている「ギターがカッコいいアイドルソング」で毎回名前の出る常連でもあり、どの曲もとにかくギターがカッコいいわけだが、転調するのもお家芸だ。転調自体はボカロっぽいとはいえないが、Dメロ（Cメロ）があることが当たり前になりつつもある現在のJ-POPシーンで、さらなるスタンダードとしてラスサビで半音上がるといった、ライトな転調も増えており、それにボカロ（並びにDTM）が一役買っているというのも間違いではないはず。一昔前は転調といえば、壮大なスケール感を描くためにしたものだが、今はインパクトというか楽曲のフックとして気軽に用いられていることが増えている。以前とあるアイドルのインタビューで“転調曲を歌う（作ってもらう）のが夢でした”と語っていたのが印象的だった。ちなみに、J-POPにおいて転調文化を広めたのはヴィジュアル系ロックバンドのJanne Da Arcの功績も大きかったのではないかと個人的には考えている。

こういったボカロの中で発展したロックが、邦ロックの1つのスタイルになってきている節もあり、それはボカロPの楽曲ではないのに、ボカロっぽさを感じる楽曲が多く存在していることからもわかる。

最後はボカロっぽさを感じさせながらも、独自の人間っぽい世界観を作り上げているRingwanderungに触れたおきたい。