EMPiREとASPの攻めたロック、アンスリュームの狂騒、PUNKY RAD PINKで想起したバンドブーム|「偶像音楽 斯斯然然」第55回 「偶像音楽 斯斯然然」第55回
冬将軍
音楽ものかき
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今回は、スタイリッシュな映像で魅せるMVが話題のEMPiREの「HON-NO」をはじめ、まだ謎多きWACKの新グループ・ASP、カオスな魅力で襲いかかってくるアンスリューム、バンドブームの香りを漂わせるPUNKY RAD PINKなど、昨今、圧倒的な個性を放っている“ロック”な楽曲&グループをピックアップ。ロックというジャンルの無限の可能性も提示する彼女たちのユニークさを、冬将軍が解き明かす。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
EMPiRE、5月12日リリースシングル「HON-NO」がすさまじい。先立って公開されたMV、キレのあるダンスとスタイリッシュなアートが交錯していく様相は、何度観ても息を飲むほどに美しい。フォトジェニックな女帝たちだからこそ成り立つ映像美だ。
EMPiRE 女帝たちが放つ唯一無二の強度
EMPiRE / HON-NO [OFFiCiAL ViDEO]
Netflixアニメ『天空侵犯』オープニングテーマであるこの楽曲は、反復するシーケンスフレーズが不穏さを醸しながらシステマティックに攻めてくるデジロック。イントロと間奏に見られる、細かく刻まれたノイジーなデジタルビートを追撃するようなディストーションギターの応酬といい、Atari Teenage RiotやTHE MAD CAPSULE MARKETSあたりを想起させるインダストリアルを昇華した90’sミクスチャー感に思わずニヤリ。とはいえ、サビの不安定なメロディがじわりと侵食してくる感覚はEMPiREらしい部分。MAHO EMPiREのどこか舌足らずな歌声と、MAYU EMPiREの感情剥き出しに叩きつけてくるようなボーカルは、唯一無二のEMPiREの強度を色濃くする。
WACKグループの中でのEMPiREの特異性を今さら説く必要はないと思うが、完全に出来上がっているグループの気品のあるイメージと、瀟洒な雰囲気を醸す彼女たちに相応しすぎる楽曲だと心底思った。EMPiRE流ガールクラッシュを高らかに提示した『SUPER COOL EP』の後であるから、なおさら説得力が増す。
さて、柏木由紀が全7グループに加入決定という、相変わらず衝撃的な話題に事欠かないWACKだが、今年3月に行われた<WACK合同オーディション2021>の最終日に新しいグループがお披露目された。ASPだ。
ASP まだ見えぬアイデンティティに高まる期待
グループのアイデンティティどころか、メンバーのキャラクター性もまだ見えぬところであるわけだが、5月26日にリリースされる1stフルアルバム『ANAL SEX PENiS』(ヒドいタイトル、いいぞもっとやれ)から、SoundCloudにてアップされている4曲が攻めに攻めている。
WACKグループは、バンドサウンドに定評があることは説明不要だと思うが、本コラムで度々触れてきたように、ここ1、2年で急激にギターサウンドが変化している。BiSHのパンク、BiSのハードコアが土台にありながら、EMPiREでは実験的なトリッキーなアプローチが増え、CARRY LOOSEではブリットポップ以降の邦ギターロック的なプロダクトが目立ち、豆柴の大群ではポップミュージックにおけるギターの在り方を問うようなアレンジメントが興味深い。
ASPで聴けるのは、ブリティッシュ仕込みのエッジの効いたギター。「BE MY FRiEND」は、パンキッシュなナンバーであるが、BiSHやBiSのUSな香りはせず、ソリッドなサウンドとタイトに攻めるタイム感が、パブロックでグラムな雰囲気の曲調と相まって、ブリティッシュな印象を受ける。「被害者ぶるな」はUKニューウェーヴ〜ポストパンクな空気感に日本の童謡を感じさせる旋律が絡むナンバー。ジャン=ジャック・バーネルばりのゴリゴリベースに絡みつくアーシーなギターがたまらない。
「WAiT And WASTE」はWACKらしく、疾走感をエモーショナルでぶん殴っていくナンバーだが、「被害者ぶるな」同様にゴリゴリベースが心地よく、さらに前のめりのドラムがこれまでのWACKではあまり感じられなかったグルーヴを生み出している。「拝啓 ロックスター様(本物)」の人力ドラムンベースからロンドンパンク、グラムロックまで飲み込んでいく騒々しさ、やかましさの中にあるグルーヴも同様で。明らかにWACKではあるものの、これまでのWACKにはなかった肌触りが新鮮だ。
と、これは現在SoundCloudで聴ける4曲の印象だけで語っているので、いざ活動を開始するとまた印象は変わってくるのかもしれないが、これまでとは一味違う、ロックファンの琴線に触れてくる音楽性に注目である。
ボーカル面でも、実力派のユメカ・ナウカナ?(ex. CARRY LOOSE)とナアユ(ex. WAgg)を軸に安定感のある聴き心地であり、ナ前ナ以、モグ・ライアンも詳細は未だ不明であるが、面白いグループになりそうである。
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