EMPiREとASPの攻めたロック、アンスリュームの狂騒、PUNKY RAD PINKで想起したバンドブーム｜「偶像音楽 斯斯然然」第55回「偶像音楽 斯斯然然」第55回

アンスリューム『バースリュームツー』で炸裂する個性

ロックファンの琴線に触れるどころか、琴線を思い切り引きちぎって、頭の中までも引っ掻き回してくるのがアンスリューム。この度、ニューアルバム『バースリュームツー』をリリース。すでに発表されていた各メンバーソロ曲に新曲を加えたものであるが、既存曲も単体ではなくアルバムとして聴くと、よりわけがわからなくなる。2020年のアイドルシーン、いやJ-POPシーンを揺るがした怪作『にゅーかおすっ!!!!』と合わせて聴いてみれば、このアンスリュームというグループが一体なんなのか？　さらに謎が深まることだろう。

メンバーのソロ曲というより、アニメのキャラソング的な趣きで各メンバーの個性が炸裂している。楽曲の幅広さも相まってカオスな狂騒と化している。せっかくなので、1曲ずつその魅力を紐解いていこう。収録順ではないので要注意である。

まずはボーカリストとして、抜群のセンスを持った天神・大天使・閻魔の「検査」。

アンスリューム 検査（天神・大天使・閻魔ソロ曲）

ダークな雰囲気のする歌謡ライクな楽曲であるが、曲調に寄せてちょっと斜に構えたスモーキーで気だるいボーカルも蠱惑的で美しい。このあたりは曲やフレーズによって声色を変えてくる閻魔だからこその業。そんな彼女のハンサムっぷりに、“閻魔ガールズ”なる、同業者のファンが急増中なのも納得である。それにしてもVAPEを吸ってる姿がカッコいいアイドルなんて、ズルすぎるだろ。

月埜ヒスイの「BLACKOUT!!♡」は、80年代のアニメ主題歌に用いられたアイドルソングのメロディを90年代ユーロビート調に乗せて、さらに今どきのボカロソングに昇華したと言わんばかりの、聴けば聴くほどに深い楽曲。

アンスリューム BLACKOUT!!♡（月埜ヒスイソロ曲）

耳の奥、鼓膜をすり抜けて蝸牛にまでまとわりつくような、月埜の甘い歌声だが、1度ハマると抜け出せなくなる。なぜにここまでの中毒性があるのかと思えば、絶妙なピッチ感を持っていると気づいた。絶対音感的なピッチ感ではなく、相対的に常に心地の良いフラット感を保っている。女性ボーカルには“ぶら下がっている”などという、ジャストの音程よりほんの少しだけ低い音程の方が、気持ちよい聴き心地を得られたりすることがあるのだが、彼女の歌にはそれがある。だから、通常の4人によるアッパーチューンで彼女の声に妙なα波を感じたり、ライブにおいても歌い上げるタイプではないのに時折彼女の声がパーンと抜けてきたりするのである。これは狙ってできるものではなく、天性的なものであるが、ボーカリストとしていい武器を持ったアイドルである。

月埜の歌声は中毒性があるが、ダンスとその佇まいに中毒性にあるのが、ちぎらである。身体能力が優れているとか、リズム感とかキレがすごいとか、一般的なダンスのスキルが高いとか、そういう技術的な部分で説明できないところに魅力を感じ、気がつけば彼女を追ってしまう。しなやかで可憐な動きは、実に女性的でありアイドル的でもある。最初は閻魔や月埜に目が行ったとして、そんなちぎらの魅力に気づいたのなら、もうアンスリュームに脳が侵されている。

アンスリューム 契れ！魔法少女☆ぽめらちゃん（ちぎらソロ曲）

メルヘンチックな可愛らしい曲だと思ったら、いきなり“あんた”呼びだし、一人称“あちき”だし。めちゃくちゃキャッチーに特化しながらもまったく理解不能な言葉が次々と転がっていくガッチャマン。思えば、脳が溶ける呪文“君臨君臨くくりりりーん”の「アンスデーム」も、仮歌のハメ英語をそのまんま歌詞にしてしまった「だだだっ!!!!」も彼女の作詞だった。ちぎらのワードセンスに翻弄されっぱなしじゃないか。それにしても、MV含め、「契れ！魔法少女☆ぽめらちゃん」の可愛さとシュールが同時に襲ってくる狂気の世界恐るべし。

アンスリュームのしっちゃかめっちゃか具合いを増強しているのは、黒木いろの存在も大きい。本能の赴くまま、迷いのないボーカルがゴリゴリに攻めてくる「しゃぼん玉」。

アンスリューム しゃぼん玉（黒木いろソロ曲）

今どきのロックアイドル曲とでもいうか、Emoをベースとした、それこそWACK的手法とでもいうか、この年齢の女子だからこそのパワーを一気に引き出すようなアッパーなロックチューン。強さと弱さを併せ持ちながら、ちょっと人を食ったような黒木のボーカルが等身大的であり、楽曲のパワーをさらに強いものとしている。

比較的聴きやすいロックチューンと見せかけて、ストレートに行かないのが奇才プロデューサー、katzらしいところだ。一聴してキャッチーに聴こえるメロディも要所要所で妙な引っ掛かりがあったり、歌を邪魔するかのごとく弾きまくるギターといい、聴けば聴くほど一筋縄ではないことに気がつく。それにしてもドラムである。相変わらず足癖の悪いキックもお家芸だが、手数多すぎだろ（いいぞもっとやれ）。

『バースリュームツー』には、こうした破壊力抜群のアクのつよ、いやバラエティ豊かなソロ曲が揃い踏み、さらにキャッチとポップが強襲してくる「ぺるぺっぽ」と、アンスリュームらしからぬ、きらきらと春めいた綺麗な楽曲「さくらブロードウェイ」が収録されている。個人的には「さくらブロードウェイ」のギターソロがたまらなく好きだ。何度でも言うが、聴けば聴くほど、アンスリュームの謎が深まる作品である。

アンスリューム ぺるぺっぽ [Live MV]

それにしてもこのところ、定期的によくUSEN STUDIO COASTで彼女たちを観る機会が続いているが、完全にあの広いステージをホームと化している、謎の貫禄がすさまじいのである。

さて、最後は最近イベントでたまたま観て、心を掴まれたグループを紹介したい。