WILL-O’、raymay、ワールズエンド。にアンスリューム 鬼才RYO-Pと奇才katz 気鋭のサウンドクリエイター特集<後編>|「偶像音楽 斯斯然然」第41回
冬将軍
音楽ものかき
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今、注目しておきたい気鋭のサウンドクリエイター特集の後編。今回は、WILL-O’、raymay、ワールズエンド。、アンスリュームの楽曲をもとに、RYO-Pとkatzの鬼才&奇才っぷりを徹底的に紹介する。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
WILL-O’が現体制終了、raymayが活動終了、ワールズエンド。から深月かおりが卒業……。コロナめっ!!
この連載でも取り上げることの多いこの3グループ。好きな楽曲を並べてみれば作曲者が共通している。RYO-Pとkatzである。作曲家観点からアイドルソングを見る「気鋭のサウンドクリエイター特集」、前編に続いての後編はこのちょっと一筋縄ではいかない2人のクリエイターを各グループの楽曲とともに紐解いていこう。
↓↓↓前編はこちら↓↓↓
WILL-O’の場合
RYO-PのWILL-O’曲は前身のAlloy時代から多くあるが、今回取り上げたいのは先日少し触れた「HANABI」だ。
[Music Video] WILL-O' - HANABI
適度にラウドなバンドサウンドと適度なガーリーポップ具合いが絶妙に絡み合っている名曲。耳馴染みは良いのだが、絶対に手癖では弾けないイントロのギターリフと、拍がどうなっているのかわからないドラムパターンの鬩ぎ合い。歌に入れば比較的オーソドックスなアンサンブルアレンジになるものの、次第に騒々しくなり、緩急をつけながら沸騰していく鬼展開。以前にオフィシャルでこの曲の“弾いてみた”を募集していて……挑戦する強者もいたけれど。ええ、相当難易度高いぞ……。
バックのバンドアレンジだけではなく、歌メロディと言葉の置き方が軽快でリズミカルにコミカルに進みながら、伸びやかな和情緒あるサビを引き立たせる。ブリティッシュシンガーのようなスモーキーでハスキーボーカルの榎本りょうの両翼を、ちょいギャル味ある陽キャ桐乃みゆとクールにキメる小森うずらが固め、落ちサビで素っ頓狂に入ってくる舌ったらずの歌声がたまらない佐伯つみき、という歌割り含めて完璧な仕上がり。それにしても、いいバランスの4人組だよなぁ、としみじみ。
余談だが、以前WILL-O’にハマりかけていたロック堅物オヤジのFWだが、どうやら今ではすっかりチェキを買うほどにまでのヲタクになってるらしい。
アイドルに興味のなかったロックオヤジFWがPassCodeから我儘ラキア、そしてWILL-O’に堕ちていく話。
コラムでネタにしたいから今回の現体制終了に関してコメントくれと言ったら断られた、残念。BUCK-TICK好きのオバンギャがMIGMA SHELTERおよびAqbiRec沼に沈んでいったりと、アイドルにまったく興味のない大人がアイドルにハマっていく(ハメていく)様子は面白くもあり何よりも嬉しい。最近では、“Perfume→BABYMETAL→BiSH”という、完全に流行の模範のような好きなアイドル遍歴を持った、友人の元ドラマー女性が完全にNEO JAPONISMに墜ちたので、今度改めてその話もしたいところ。
閑話休題、WILL-O’である。方や、katz曲といえば、“げんきのうた”でお馴染みの「POP’N」。
[Choreography Video] WILL-O' - POP'N
次々と畳みかけてくるジェットコースター展開、くり返されるストップ&ゴー。かつてニコニコ動画でMAD動画からのマッシュアップが流行り、アニメやキャラソンなどでそうした情報量の多い楽曲が数多くみられたが、そうした不条理手法をバンドアレンジでやってのけた最終形態というべきものがこの「POP’N」である。
怒涛の楽曲展開に加えて、この連載での企画「ギターがカッコいいアイドルソング2019」で選んだように、各楽器のフレーズもサウンドメイクもいちいちカッコいいのだ。アイドルソング制作は、基本は生バンドで演奏することを考えなくともよいわけで。だから中には、故意なのかそうなってしまったのはいざ知らず、手足が4本ずつないとできないリズムパターンもあったりする。しかしながら、この曲に関してはそういうことがない。技術的な問題はひとまず別として、あくまで人間の限界範囲内でやれることを詰め込みました感がビシビシ伝わってくるのである。だから、楽器やってる人間が聴くとめちゃめちゃワクワクするはず。
近年のポップミュージックのトレンドはサビがないorメロの起伏が少ないのでわかりにくい、ということはこの連載でも述べてきた。しかしながらこの曲は、キラーフレーズが多すぎて逆にどこがサビなんだかわかりづらいという面白みがある。わちゃわちゃしてるけどごちゃごちゃはしておらず、感覚的で文系的なアイドルソングが多い中で、理路整然とした理数系を思わせる計算された楽曲である。聴いているだけで難易度の高いシューティングゲームをプレイしている気分にもなる。あ、あれだ、ガキの頃に衝撃的だったファミコンソフト『パロディウス』シリーズのようなカオスティックな世界観。終盤に向かって駆け上がっていくオーラスといい、最後はまさにゲームクリアしてエンディングを迎えたような、この上ない満足感を得られるとんでもない楽曲。まさに“げんきのうた”である。
WILL-O’って、ポップとロックのバランスが絶妙で、歌に関しても全員が歌えるんだけどヘンな押し付けがましさもなくスッと聴けるし、振りも可愛くてライブは楽しい。いいグループだよなぁ……(しみじみ)。
[Live Clip] WILL-O' - POP'N(2019.12.01 at 横浜Bronth.LIVE)