小室哲哉の何がすごかったのか? 音楽プロデューサー、ディレクター、A&Rってそれぞれ何する人なの?|「偶像音楽 斯斯然然」第36回
冬将軍
音楽ものかき
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これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
小室哲哉が楽曲提供(作曲・編曲)した乃木坂46の7月24日リリースの配信限定シングル「Route 246」が話題だ。2018年1月に引退を表明した小室の復帰作であり、“秋元康からの熱いオファーでの復帰”という美談も取り沙汰されているが、そのわずか1週間後の31日には小室の手掛けた(作曲)浜崎あゆみの配信限定シングル「Dreamed a Dream」がリリースされたのだから、なんとも抜け目ないとでもいうか。
そんな穿った見方はさておき、この「Route 246」は“小室メロディ+TKサウンド”といういかにもな楽曲である。globe「Feel Like dance」(1995年)を想起させる、といった声をよく耳にするのだが、それより先に渡辺美里「BELIEVE」(1986年)が脳内に流れた人は私の同世代かその上の世代であろう。
乃木坂46 『Route 246』Teaser
小室がアイドルに楽曲提供することは珍しくはないが、ここまでパブリックイメージとして存在する“小室メロディ+TKサウンド”に寄せているのは珍しい。復帰作であり、乃木坂への楽曲提供という意外性もあり、話題性を含めてわかりやすいところに持ってきたのは理解できる。
個人的に10年代の小室が手掛けたアイドルソングで印象的だったのは、SUPER☆GiRLS「Celebration」(2013年)だ。アイドル戦国時代真っ只中の当時、この神秘性を持ったような拡がり方は新鮮で、なだらかに高揚感をいざなっていく歌メロは確かに“小室メロディ”ではあるのだが、燦々とした煌びやかさは“TKサウンド”とは言い難い。当時のアイドルポップス、J-POPではありそうでなかった奥行きを感じさせるこのサウンドプロダクトは革新的であった。
SUPER☆GiRLS / Celebration Music Video
あえて、“小室メロディ”と“TKサウンド”と分けて考えたいのは確立された時期が異なっているからだ。渡辺美里をはじめ、80年代から数多く楽曲提供を行なっていた当時から“小室メロディ”は完成していた。そして、90年代のデジタルミュージックの普及とともに“TKサウンド”が確立されていった。前者はシンセサイザーの普及により、歌謡曲からニューミュージックへ変わっていく過渡期を象徴する中で生まれたものであるが、日本の普遍的な歌謡メロディを踏襲している。後者は、今度はニューミュージックからJ-POPへと変わっていった中で、打ち込み主体のダンスミュージックに傾向したもので、これもまた時代を象徴するようなサウンドである。しかし、いち楽曲として捉えると個人としての作家性の強いものでもあり、乱暴な言い方をすれば“歌い手を選ばない楽曲”であるとも言える。それは90年代に“小室ファミリー”が脅威的なヒットを次々と生み出していく反面で、似たような楽曲の乱立とその制作スピードの速さに量産型で商業的なにおいを感じ、流行として音楽が消費されていくような危機感を覚えた音楽ファンも多かったことも、そのことを表している。
しかしながら、“歌い手を選ばない楽曲”は、逆に見れば歌い手の色が出るものであり、一聴してわかる“小室メロディ+TKサウンド”は、歌い手によって生み出されるバリエーションによってカラフルにシーンを彩っていった。まさに“小室ファミリー”と呼ばれるゆえんだろう。
モーニング娘。 『抱いてHOLD ON ME ! 』(MV)
90年代は小室哲哉や、モーニング娘。をプロデュースしたつんく♂の登場によって、世間的に音楽プロデューサーの一般認知が広がっていった。当人たちのキャラクター性による広告塔的な役割も大きくあったわけだが、音楽制作自体も変わっていった。
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