MIGMA SHELTERがもたらしたライブアイドルの可能性、ディープに細分化するシーン｜「偶像音楽 斯斯然然」第113回

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作＆マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である（隔週金曜日更新）。

前回、アイドル自らが“地下アイドル”を自称することが当たり前になっている、という話をしたわけだが、そうしたシーンの時流を表すような発表があった。MIGMA SHELTERのミミミユの卒業発表である。2023年11月22日のワンマンにて、結成当時より唯一のオリジナルメンバーとして6年半在籍したMIGMA SHELTERの“顔”がついに卒業する。

今年春のレーレの卒業の際にも時代の移り変わりを感じたが、MIGMA SHELTERという自由闊達で野生的なグループの象徴といえるミミミユの卒業は個人的に考えるところも多い。ハロー！プロジェクトこそが至高だと思っていた自分のアイドル観をぶち壊してくれたのがMIGMA SHELTERだったからだ。

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MIGMA SHELTERが教えてくれたもの

アイドルに偏見を持っていたコアなロックファンが次々とアイドルにハマっていった。それはまさに10年代アイドルシーンを象徴するものだった。かくゆう私も面倒臭そうな音楽ファンの1人であったものの、マニアライク趣向に向かった反動でキラキラとしたポップスを求め、ハロー！プロジェクトを筆頭としたアイドルにハマっていった。しかしながら、再びマニアライクな音楽趣向へ戻される、ライブアイドルの沼へ引き摺り込まれるきっかけになったのがMIGMA SHELTERだった。サイケデリックトランスを標榜しているものの、コテコテのトランスではなく“ロック畑の人が作っているトランス”といったキャッチー性はロックベースで生きてきた自分にとっては斬新でありながらも親しみのあるものであったし、そもそも女性ボーカルのポップスとしての楽曲強度の高さにやられたのだ。

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MIGMA SHELTERはその特異な音楽性のみならず、アイドルライブにおける“オケ”の概念を大きく変えた。アイドルにおける轟音バンドサウンドをヤなことそっとミュートが極めていた一方で、MIGMA SHELTERは、音源はもちろんのこと、当時普及しつつあったハイレゾ音源に寄り添った音響を作り込んでいた。今となってはマニピュレーターが乗り込むアイドルライブも多く見かけるようになったが、CD音源、2ミックスのオケが主流の中でそれをやっていたMIGMA SHELTERは、アイドルライブ音響のクオリティ向上に大きく貢献したことは間違いない。＜ギュウ農フェス＞における、ageHa（新木場 STUDIO COAST）のオクタゴンスピーカー使用という、暴挙ともいえる試みはMIGMA SHELTERなくして実現不可能であっただろうし、実際あの怪物音響を飛び道具としてではなく、きちんと使いこなせていたのはMIGMA SHELTERだけだった。まさに“オクタゴンの申し子”という異名に相応しい。昨今では音質と音響にこだわり、ライブで素晴らしいサウンドを聴かせるグループも多くいるが、MIGMA SHELTERのデジタルサウンドであるのに温かく、爆音であるのにうるさくないという不思議な音響は唯一無二である。

オリジナルメンバーであったミミミユは当初、スキルの高いメンバーというわけではなく、飄々としたどこか掴みどころのなさがあった。しかしながらリーダーに就任してから豹変。ワンマンステージのみみみしぇるたーから、ブラジルとの2人編成、新メンバー加入といったグループ体制が大きく変わっていく中でも、MIGMA SHELTERにはミミミユがいるという安心感があった。ちょうどコロナ禍に突入した時期に別媒体にて、ブラジルにロングインタビューしたことがあるのだが、その際もブラジルの彼女に対する信頼とリスペクトをこれでもかというほど感じたものである。そんな彼女の卒業は、グループに大きな変化をもたらすことは間違いなく、MIGMA SHELTERの世代交代は、イコール、ライブアイドルの時代の変化を感じずにはいられないのである。

[RAVE] 2023.07.09 "AQBI DIG" Tornado - MIGMA SHELTER