BLACKPINKから遡るソ・テジ、日韓市場戦略と韓国バンド事情「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」後編|「偶像音楽 斯斯然然」第34回・後編

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冬将軍

音楽ものかき

2020.07.05
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これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

私のような中年男性は、アイドルを追いかけていると、若い女性のトレンドを知ったつもりになってくるのだが、日本のアイドルはある程度、ヲタクの好みに寄せていることが多いので注意が必要だ。メイクもファッションも音楽も、アートワーク的なデザイン性も、今のトレンドを知りたければ、K-POPを覗けば大体わかる。女性が憧れる女性アイコン“ガールクラッシュ”恐るべし。

さて、前編では話題のオーディション『Nizi Project』から誕生した新ガールズグループ・NiziUやTWICEを手掛けるJYP(パク・ジニョン)プロデュースを軸に、現在のポップミュージックのトレンドになりつつある“スッと聴ける耳馴染みと物足りなさを感じる楽曲の長さ”について考えてみた。後編ではそれを生み出した韓国の音楽市場を、韓国アーティストの制作の中で日本との大きな違いを目の当たりにした私の経験をもとに紐解いていきたい。

↓↓↓前編はこちら↓↓↓

日本と韓国の音楽マーケティング戦略の違い

日本では、リリース日に照準を合わせたプロモーションが通例である。インタビューやCMなどのメディア露出も、販売店での販促特典も、基本的にリリースに合わせたものであり、直球に言ってしまえば、要はオリコン上位を狙うための戦略だ。そして、そのリリースのスパンを見れば、1年に複数枚のシングルリリースを重ね、さらにアルバムリリース、というパターンは珍しくない。しかし、韓国ではシングルという形式がなく(後年、日本市場に向けてシングルをリリースすることもあるが、基本は“シングルアルバム”という、ミニアルバム未満のアルバム形式であることが多い)、リリースは1年に1枚のアルバムをリリースという形が一般的だ。そして、アルバムの中から1曲ないし数曲のリードを決め、随時MVを制作していきながら、半年から1年かけてじっくりプロモーションしていくという形をとっている。これは、“楽曲が評価される(売れる)のはリリース後の世に出てから”という考え方であるが、我が国では音楽業界の構造上、こういったプロモーションの形にはなっていない。

日本ではCDの販売促進および、楽曲の宣伝活動をレコード会社が行なうことが一般的なため、この長期的なプロモーションは現実的に無理なのである。海外ではCDを売るための販売促進はレコード会社が行なうが、楽曲自体の宣伝は音楽出版社が担当することが多い。私が韓国のアーティストを担当して1番驚いたのは潤沢な制作予算である。韓国のアーティストがすべてそうだとはいえないが、長期的なプロモーションとレコード会社と音楽出版社などの分散体制も相まって、先行投資としての予算の掛け方に余念のなさを感じた。

このような日本と海外の音楽業界の構造の違いに関してはきちんと説明すると長くなるので、機会があれば改めて解説したい。

つまりはこうしたプロモーションの違いが楽曲制作にも反映されている。短期決戦で売上に繋げたい日本は、1発で聴き手の心を掴む瞬発力“キャッチーさ”が求められ、長期戦で構える韓国ではくり返し聴いてもらうことを前提とした持続力“耳馴染みの良さ”を重視している傾向にあるというわけである。

それは、前編で触れたTWICEのニューアルバム『MORE & MORE』表題曲と日本向けのシングル「Fanfare」を聴き比べれば瞭然である。

TWICE "MORE & MORE" M/V

TWICE 「Fanfare」Music Video

韓国のロックバンド事情

“韓国はバンド活動がしづらい”という話は、ロックファンであれば耳にしたことがあるかもしれない。理由はいくつかある。まず、会場の問題。100人キャパのライブハウスはあっても、その上の1,000〜2,000人キャパの会場がほとんどなく、いきなりアリーナクラスの規模になってしまうことだ。日本のようにライブハウスを埋めてから、次はBLITZやZeppを目指し、その次はホールへ、というステップアップが難しいのである。さらに兵役がある。兵役は義務であり、これを果たしていないと就職が難しい。であるから、韓国では大学在学中に休学して兵役に行くことが一般的になっており、25歳で大学を卒業する人が多い。すなわちバンド活動に費やせる時間が圧倒的に少ないのである。そして国柄、夢を追いかけながら働くという、いわゆるフリーターという概念への理解が少なく、アルバイトをしながらバンド活動する生活は厳しいのが現実であると、韓国のとあるバンドマンから聞いた。

Youjeenを知っているだろうか。40代のロックファンなら覚えている人も多いはずだ。2001年1月、終幕したばかりのLUNA SEAのJが国を問わず立ち上げたプロジェクト『FIRE WIRE』にて、圧倒的な歌でJとzilch目当てに赤坂BLITZに集まったオーディエンスの度肝を抜いた韓国人女性アーティストである。同年3月にJのプロデュースで日本デビュー。翌2002年には室姫深(ex.THE MAD CAPSULE MARKET’S)のプロデュースを受けて活動。計2枚のアルバム、5枚のシングルを残した。活動期間はわずか約2年であったが、ヘヴィミュージック、ミクスチャーロックファンの心を鷲掴みにしたのだ。

彼女はなぜ2年しか活動しなかったのか。もともとCherry Filterというバンドで活動しており、2000年4月にDragon Ashのプロデュースで韓国デビューしている。しかしながら、彼女以外のメンバーが男性だったため、兵役によって活動休止せざるを得なかったのである。その間に日本に送った音源が関係者の耳に留まり日本デビュー、という流れだった。メンバーの兵役が終了した後は、祖国でCherry Filterとしての活動に専念している。日本でのリリースがなかったがためにあまり知られていないが、Cherry Filterはその後も室姫深や、hideのマニピュレーターであるINAが楽曲をプロデュースしている。韓国では、ドラムが録れるレコーディングスタジオが少ないために、日本のスタジオでレコーディングされていたこともあった。

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