BLACKPINKから遡るソ・テジ、日韓市場戦略と韓国バンド事情「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」後編|「偶像音楽 斯斯然然」第34回・後編
BLACKPINKから遡るソ・テジ、日韓市場戦略と韓国バンド事情「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」後編|「偶像音楽 斯斯然然」第34回・後編
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
BLACKPINKが掲げるK-POPバンドサウンド
EDMやヒップホップが主流の昨今において“ロックは終わった”などと囁かれることも多いわけだが、“今やEDMやヒップホップこそがロック”という見方もできる。そして、ギターにしてもドラムにしても、打ち込み主体のダンスミュージックの中で生楽器をどう鳴らしていくのかということも重要視されている。そこにいち早く注目したのが韓国の芸能事務所・YGエンタテインメントであり、今まさにそれを高らかに示しているのがBLACKPINKである。YGエンタテインメントは、BIGBANGで作り上げてきたものをBLACKPINKでさらに昇華させている。その1つの完成形が、<コーチェラ・フェスティバル2019>でも世界を魅了したバンドセットだ。
BLACKPINK - 'Kill This Love' Live at Coachella 2019
BIGBANGのワールドツアーに同行していたThe Band Sixと呼ばれるそのバンドは、今やBLACKPINKのライブに欠かせない存在となっている。バンマスのGil Smith II(Key1)を軸に、Omar Dominick(Ba)、Bennie Rodgers II(Dr)、Justin Lyons(Gt)、Dante Jackson(Key2)というアフリカ系アメリカ人がくり出す重厚なアンサンブルは、BLACKPINKのライブサウンドにおける大きな構成要素だ。その強靭さは“今、最もヘヴィなグルーヴを鳴らすバンドはBLACKPINKのThe Band Sixである”と言っても間違いではないだろう。一見、バンドとは無関係そうなグループがライブでは極上のバンドサウンド、しかもヘヴィミュージックのグルーヴを鳴らしていることは注視したいところだ。
“文化大統領”ソ・テジの功績
さらに興味深いのは、YGエンタテインメントの創設者であるヤン・ヒョンソクが、ソテジワアイドゥル(Seo Taiji and Boys)のメンバーだったということだ。ソテジワアイドゥルは1992年から1996年まで活動したグループで、韓国の音楽界を変えた存在である。もしかすると、“ソ・テジ”の名前でピンときたロックファンがいるかもしれない。ソ・テジ(Seo Taiji)といえば、“文化大統領”の異名をとり、金大中(第15代韓国大統領/1998年 - 2003年)をして“社会的な意味を持った音楽家”と評価されるほどの韓国のカリスマである。
태지(SEOTAIJI) - 인터넷 전쟁(Internet War) M/V(2000年)
ソ・テジはソテジワアイドゥル解散後に渡米。ソロ活動の中で、KORNやhide影響下のモダンヘヴィネスへの傾向を見せたアルバム『Ultramania』(2000年)が100万枚以上のセールスを記録。歌謡曲が主流であった当時の韓国の音楽シーンに大きな爪痕を残した。このことは日本でも話題となり、<SUMMER SONIC 2001>にも出演している。ついには、KORNとの共演も果たし、次作アルバム『7th issue』(2004年)には、Spread BeaverからINA(アレンジ、プログラミング、デジタルエディット)、K.A.Z(Gt.)、そしてJ(Ba)が全面的に参加。海外志向の強かった前作を踏まえて、独自の音楽センスを開花させ、韓国の音楽シーンを一変させたことがありありとわかる作品である。
ヤン・ヒョンソクが生音回帰とも取れるバンドセットに重きを置いたのは、ソ・テジを意識していたかどうかはわからない。だが、“文化大統領”とまで評されるほどになったかつての盟友を、まったく意識していなかったと言い切ってしまうのはなんだか夢がない。それに、YG所属アーティストの中で、初めて国際的な活動を始めたR&Bシンガー、SE7ENが日本市場で契約を交わしたのは、ポップミュージックを得意とするレーベルや事務所ではなく、hideやGLAYでお馴染みのアンリミテッドグループ傘下の会社だった、ということも実に興味深い。
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