豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg……さらなる進化を遂げる「WACKの素晴らしき世界」|「偶像音楽 斯斯然然」第33回

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冬将軍

音楽ものかき

2020.06.20
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

今、WACKが面白い。今さらそんなことは言うまでもないって? いや、今だからこそあえて言いたい。シーンでの存在を大きくしながら、新グループを誕生させ、それぞれのキャラクター性の拡大とともに、その音楽性とサウンドも進化しながら多岐に渡っているのである。

そのことを大きく感じたのが、豆柴の大群待望の1stアルバム『スタート』だ。言わずとしれたTBS系『水曜日のダウンタウン』内企画「MONSTER IDOL」発のグループということで、どこか企画モノな側面もあった中、安田大サーカス・クロちゃんとの対決においてWACKの本気を見せた「大丈夫サンライズ」。BiSからの伝統を落とし込みながらもメンバーのポテンシャルを引き出していく同曲は、WACKプロデュースの真髄とサウンドプロデューサー・松隈ケンタ&SCRAMBLESの手腕をこれでもかというほどに魅せつけた。

豆柴の大群「大丈夫サンライズ」

豆柴の大群『スタート』が見せた女性ボーカル作品としての完成度

クロちゃんプロデュースで始まりながら、WACKプロデュースに移行したことで、両楽曲の整合性とグループとしてのベクトルをどこに持っていくのか。そこが注目であった1stアルバム。蓋を開けてみれば、期待以上の完成度と予想以上の面白さ。紛れもなくWACKのグループであり、それでいて既存の他グループとの差別化がしっかりできている様は見事。アイドルポップス、そして女性ボーカル作品としてのクオリティの高さは聴き応え充分。クロちゃんが手掛けた王道アイドルソング路線も、WACK節全開のパンクロックと並んでいても違和感などなく、むしろ自然に馴染んでいる。クロちゃん楽曲「りスタート」「ろけっとすたーと」は、WACKファンから見れば、クロちゃんテイストが盛り込まれながらも、やはりどう聴いてもSCRAMBLES楽曲であり、そういう意味では極端に浮いてしまうことはないことはわかっていたことなのかもしれない。とはいえ、路線としては真反対。その2つを繋ぐ“バラエティに富んだ”方向性という落としどころも、まだアイデンティティの確立されていない新グループにとっては、とっ散らかるだけの危険性だってあったはず。

アルバム1曲目からぶっ放してきた「豆柴の大群-お送りするのは人生劇場-」。こんな自由奔放な曲がドアタマから突進してくる予想外の強襲、“してやられた”感。そして、聴き手を“なんでもアリだな”という気にさせながら、先行配信されたクロちゃん作詞曲のホーンセクションの入ったファンクなチューン「ドンクサハッピー」ではしっかり聴かせ、「CHANGES」の乾いたアメリカンロックや、「トラスト」「そばにいてよ Baby angel」といった大陸的ビートを孕んだハードロック調のナンバーなど、エモーショナルでアッパーなロックを得意とするこれまでのWACK楽曲とは一味違う、しっかりとした歌モノロックの趣をも感じさせている。

豆柴の大群「豆柴の大群-お送りするのは人生劇場-」

何より、そんな多彩な楽曲群をとっ散らかることなくまとめている大きな要素は、ボーカルである。ハナエモンスターの安定感とナオ・オブ・ナオの凛々しい強さが牽引しながら、ミユキエンジェルの滑舌を崩した歌も、アユニ・D(BiSH)、MAHO EMPiRE(EMPiRE)とも違うスタイルで、一筋縄ではいかないクセ者っぷりを撒き散らしながら、中毒性を誘ってくる。松隈が自身のYouTubeチャンネルで口にしているように、アイカ・ザ・スパイとカエデフェニックスの飛び道具的な味もいい味を出しながらフックとなり、1stアルバムながら、ボーカリストとしての各キャラクターが、武器としてすでに確立されていることに驚いた。

「ハナエとナオの2トップ、ミユキイチ押し、アイカとカエデは飛び道具」by 松隈

ナオの未成年飲酒報道というマイナス要素を逆手に取り、ブラックユーモアに昇華しながら、起爆剤にしてしまったのはWACKだからできた業。そんな楽曲「FLASH」はWACKらしいパンク精神が炸裂したと同時に、豆柴の大群自体を思いっ切り解放へと向かわせたのかもしれない。今後の成長が楽しみで仕方ない。

豆柴の大群「FLASH」

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