EMPiRE、PEDRO、BenjaminJasmine、RAY ノスタルジーに浸りたいオルタナティヴロック|「偶像音楽 斯斯然然」第29回

EMPiRE、PEDRO、BenjaminJasmine、RAY ノスタルジーに浸りたいオルタナティヴロック|「偶像音楽 斯斯然然」第29回

冬将軍

音楽ものかき

2020.04.25
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

“ギターロック”──。音楽ジャンルを指すものではないけれど、なんとなく言いたいことはわかるし、つい使ってしまうこの言葉をはじめて目にしたのは、黄色い某外資系レコードショップで見かけたSUPERCARのデビューシングル『cream soda』(1997年)を紹介する手書きのポップだった。メタルからの新機軸だったNirvanaのグランジ、CDなのに回転数を間違えたかと思ったMy Bloody Valentineのシューゲイザーはもとより、BlurやOasisからのブリットポップブーム、日本ではhideがZEPPET STOREを見出し、“下北でやってる場合じゃない”と彼らのためにLEMONedを設立、“渋谷系”に対して“下北系”なんて言葉が流行ったあの時代。USはシアトルにブルックリン、UKはマンチェスターにオックスフォード、アイルランドはダブリンから日本の下北沢まで、低めに構えたギターをガーッとかき鳴らすロックのことを総称するための言葉だったのが“ギターロック”である。

アイドルの音楽によって、中高年がかつての若き夢を呼びさまされることはよくあるが、今回はそんな時代を想起するようなオルタナティヴなギターロックを感じた楽曲をピックアップ。

EMPiRE 新境地を切り拓いた2曲

EMPiRE初となる映像作品『EMPiRE’S GREAT REVENGE LiVE』の初回限定盤に告知なしで同梱された新曲2曲。昨年末にリリースされた2ndアルバム『the GREAT JOURNEY ALBUM』で新境地を開拓したEMPiREだが、今回もまた“この手があったか!”と唸ってしまった。

EMPiRE / ORDiNARY [OFFiCiAL ViDEO]

鮮やかなブルーの衣装が印象的な「ORDiNARY」はひんやりとした質感がまとわりつくサイケデリア。静寂の中の轟音が覚醒していくフォークトロニカ+ドリームポップ。MAHO EMPiREの甘い歌出しに誘われるよう、次々継がれていく歌声の面差しになんとも言えない恍惚感を覚える。ゆっくりとはためくオーロラのようなメロディとその空にシュプールを描いていくようなギターのトレモロが、この夢幻な世界を作り上げていく。水の中に沈んでいくようなウェットなギターソロも昂然としていて、MONOに通ずる現代音楽のオーケストラ風なポストロックアプローチはWACKとしても新しい。そんな侘び寂びを効かせたトラックとは裏腹に、あえて抑揚をなくしたようなボーカルは不思議な新感覚である。優しく温かい歌声に思えて、なんとも感情が読み取れないような冷たさをも感じてしまう。MVの視覚的効果と合わせて、ラストを歌い締めるYU-Ki EMPIREのすべてを達観したような表情にゾクッとする。

EMPiRE / I have to go [LYRiC ViDEO]

もう1曲の「I have to go」は打って変わってハネたリズムが印象的なガーリーポップ。ピアノがレンジを広めに取りつつ、終始鳴っているワウギターがいい意味で異物感を放っている。奥行きと広がりを感じさせるバンドサウンドが、ボーカルの軸となるMAHOのはにかんだような歌声と混ざりながら、軽快に転がっていく。MAHOによる女の子らしい恋心を綴った歌詞。飾っていない言葉なのに、美しい響きが羅列する彼女の作家性も相まって、EMPiREとしてもWACKとしても、これまでにない曲調を導き出している。EMPiREは、エイベックスとの共同プロジェクトということもあり、ロックバンド色の強いWACKグループの中では特異な、ニューウェイヴやEDMといったエレクトロなものを主軸してきた。しかしながら、この2曲のようにギターを前面に出していくようなオルタナティヴロック方面の試みに振り切れたのは、メンバーのボーカリスト&アーティストとしての個性が確立されてきたからだろう。それはグループとしての振り幅だけでなく、同時にWACKのパブリックイメージではない新境地が、EMPiREによって、ひいてはメンバーの成長によって新たに生み出されているという事実に興奮せざるを得ない。

PEDRO「生活革命」 アーシーに響くオルタナティヴ

PEDRO / 生活革命 [OFFICIAL VIDEO]

そして、EMPiREとは対局的なアプローチを見せているのが、PEDROの4月29日リリース『衝動人間倶楽部』からの「生活革命」。アーシーに響くギターのアルペジオが軸となったシンプルなバンドサウンド。歌詞もMAHO EMPiREが活発的な女子心を書いているのなら、アユニ・Dはやり場のない気持ちで胸が締め付けられるような孤独感。そしてそこから差し伸べられる安心感。“みんな死ねと叫んだ時に 君は言った「ふたりで生き残ろうね」”という詞が妙に響く。当初はサイドプロジェクト的な印象もあったPEDROであるが、アユニのぶっきらぼうなボーカルと掴みどころのない人間性を落とし込みながら楽曲、そしてサウンドが形成されている様を見れば、彼女自身のアーティスト性がPEDROとして開花していることは一目瞭然である。

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