渡辺淳之介&岩淵弘樹監督[インタビュー]アイドルの悲劇の正体「1番自覚しなきゃいけないのは、自分が何者でもないってこと」

渡辺淳之介&岩淵弘樹監督[インタビュー]アイドルの悲劇の正体「1番自覚しなきゃいけないのは、自分が何者でもないってこと」

鈴木 健也

Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)

2019.10.29
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BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE、WAggらが所属する音楽事務所『WACK』によるノンフィクションエンタテインメント映画『IDOL-あゝ無情-』が、11月1日(金)より劇場公開される。2019年3月に九州の離島・壱岐島で開催されたアイドル志望者たちが挑んだ過酷なオーディション合宿と、その裏で進行していた第2期BiSの最期の瞬間を収めた本作。アイドルになることやエンタテインメントの世界で生き続けていくことの難しさを改めて気づかせてくれる本作は、一体どのような想いを持って制作されたのか。今回、本作のプロデューサーであり、WACK代表の渡辺淳之介と、監督の岩淵弘樹にインタビューを敢行。作品と同じように赤裸々に語られた彼らの言葉の数々は、アイドルの困難の正体やエンタテインメント業界で生きていくことの覚悟について考えさせてくれるものとなった。

今回はドラマ性とか物語性を強くしました(岩淵)

――前作『世界でいちばん悲しいオーディション』(2019年1月公開)を踏まえて、本作はどのように制作に臨んだんでしょうか?

岩淵:
まず前作とは撮り方を変えようっていうところで、カメラマンのエリザベス宮地くんと相談して外国人の記者を入れようかとか、いろんな企画が上がったんです。その中で、女性カメラマンを入れるってことが決まりました。

渡辺:
前までは男のカメラマンしかいなかったんです。僕たちに圧倒的に足りないのは女性目線じゃないかって話で、今回、女性カメラマンを入れたんですよ。でも、違いはそれぐらいですかね。

――今回もオーディションの実施が決まった段階からドキュメンタリーも作ることは決定していたのですか?

渡辺:
とりあえず撮ってみてから考えようかなぐらいの感じでしたね。画があれば作るけど、最悪ダメそうであればいいかなってくらいの感覚でした。

岩淵:
ただ、僕としてはなんとか形にしたいなと思っていました。なので、渡辺さんに許可をもらって、前回よりもカメラマンの人数を3倍ぐらいに増やして。今回は、画を撮るための網をとにかく広げるだけ広げました。

――前作で渡辺さんにお話を伺った時に、オーディションは自分の予想とは違う展開になることが多いと言っていたのがすごく印象的で。本作もオーディションの模様を追ったドキュメンタリーになるのかと思いきや、途中から第2期BiSの終幕にフォーカスがグッと寄っていくじゃないですか。この展開は予想外だったのかなと思いました。

渡辺:
そうですね。まあ、僕的には、アイドルになりたい女の子たちと、アイドルになったのになり切れなかった女の子の対比ができたのかなって思っていて。そこで言うと、BiSのメンバーたちがグループの解散を阻止するためにもっと頑張るのかなって思っていたら、ビックリするぐらいポンコツだったっていうのは、けっこう予想外でしたね(笑)。

――BiSの解散は、オーディション合宿前に渡辺さん自身がメンバーに告げていたんですか?

渡辺:
はい。

――それは、69時間イベント(2019年3月18日から3月22日の5日間に開催された<BiSなりの69フェス。~Are you ready to 69H?>)より前に?

渡辺:
そうですね。映画を観てくれればわかるように、メンバーは9人でやりたいって口で言っておきながら、全然そう思ってないわけですよ。オーディション合宿をやる半年前ぐらいからそんな状況だったので、もうちょっとさすがに活動を続けるのは無理だから解散したらどうだろうか?って話をしたんですね。そうしたら彼女たちは“いや、自分たちは変わってみせる”って言ったんで、“合宿までは一旦見るから、そこまでに何かしら示してほしい”っていうことを伝えたんです。

――岩淵さんは、オーディション合宿の撮影をする上でBiSの解散はかなり意識していたんですか?

岩淵:
解散の話はちらっと聞いてたんですけど、それ以上聞かないようにしていました。と言うのも、現場で起こることに常に反応していかなきゃいけないと思っていたので、カメラマンたちにもそういう前情報は入れずに参加してもらって、撮りながら自分もいろんな人に話を聞いて追っていくという形でした。渡辺さんが合宿の半年前からそういう話をメンバーと重ねていたという重みみたいなものは、正直合宿だけに参加していると、断片的にしかわからなくて。渡辺さんからすると、その前からグループはバラバラだったんですよね。僕はそこを合宿だけで見たので、最後の話し合いの時に本当にバラバラだったことがハッキリしたという感じでした。

――今回のドキュメンタリーの構成を決める上で気を配ったところは?

岩淵:
最初は2時間ぐらいあって、もっと合宿のほかの部分とか東京に残ったBiSメンバーのシーンが入っていたんです。でも、それだと冗長的なので、映画としてキュッとまとめた方がいいんじゃない?っていうアドバイスを渡辺さんからいただいて、徐々にBiSにフォーカスしていく形になりました。

――合宿を追った作品だと思っていたので、東京に残っていたBiSメンバーのシーンは印象的でした。

渡辺:
カメラマンの人数を3倍に増やしたっていうのも、東京にいる子たちがどういう反応をするのかっていうのを見てみたかったっていうのもあったんです。合宿に来ている子たちは戦力外通告を受けていて、合宿で脱落したらBiS脱退っていうのが決まっていたので、その姿を観た時に東京に残っている子たちはどういう反応をするのかは撮っておいた方がいいよねってぐらいの感覚でしたね。

――カメラマンの人数が3倍になったということは、編集作業もかなり時間がかかったのでは?

岩淵:
そうですね。今回の映像素材が500時間ぐらいあって、あと昔のBiSを撮っていた丹羽(貴幸)さんと浅井(一仁)くんにも当時の映像素材をもらって。当初は、旧BiSから始まる長い歴史を全部網羅するように編集したんですけど、それだと話の焦点がバラけてしまうので、最終的に今回の形にまとめました。編集期間自体は、4ヵ月ですね。

――岩淵さんの中で、前作と比べて工夫したポイントは?

岩淵:
前作はオーディションに落ちた子に焦点を当てていたので、けっこうシンプルにフォーマット化していたと思うんですよね。でも、今回はドラマ性とか物語性を強くしていきましたね。

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