渡辺淳之介＆岩淵弘樹監督［インタビュー］アイドルの悲劇の正体「1番自覚しなきゃいけないのは、自分が何者でもないってこと」

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自分らしくいることはすべてが正解じゃない（渡辺）

――渡辺さんは、以前、回数を重ねるごとにオーディションに参加する女の子たちの緊張感が変わってきたとおっしゃっていました。

渡辺：
そうですね。前回まであったデスソースがなくなって（食事の中に超激辛ソースをランダムに入れるという企画）、今回は食事の時間がピクニックみたいになったんですよ。飯は全部食わなきゃいけないっていうのはあるんですけど、和気藹々としてしまったというか。あと、年を追うごとに、ウチの事務所に入ればなんとかしてもらえるもんだという風に思っている子が増えた感じはありますね。入るために必死に頑張って、僕に対してアピールしなきゃいけないはずなんですけど、オーディションに来たことで満足しているというか。もちろんそういう子たちは落ちていくんですけど、それすらも他人事になっているという感じはありましたよね？

岩淵：
そうですね。前回の方が悲壮感ありましたよね。食事も勝負の時間で、デスソースを食べなきゃいけないっていうので、ずっと緊張感をキープしていたというか。前回の方がみんな必死感はあったと思います。でも、集まってきた子の質の問題なのか。

渡辺：
それともオーディションのシステムの問題？

岩淵：
どっちなんですかね？　両方なんですかね？

――合宿中は常に撮影されていることも含めて、アイドルとして生きていく上では常に緊張感を持つことが大切という想いもあるのでは？

渡辺：
そうですね。やっぱりどこにいても見られているっていうのは意識しておいてほしいなと。それこそ芸能人になるわけなので週刊誌だったり、もちろん一般の方たちとか、いつ誰がどこで何を見てるかわからないじゃないですか？　アイドルになったら一般人じゃないので、そういう緊張感はやっぱり持ってないといけないって思います。映画を観てて思うんですけど、次に繋がらない発言をするヤツって、けっこう多いですよね。前回の映画でも、“移動はグリーン車じゃないんだ”みたいなことを言っちゃう子もいましたし。自分への評価が非常に高いのか、何をしても許してもらえると思っているのか。そんなわけないじゃないですか。今回は落ちても次の機会があるかもしれないから、“自分の力不足です。こうやってお金を出してもらえただけでもありがたいです”みたいなことを言うべきなんですよ。僕自身は絶対にそう思わないタイプだけど、人前ではやっぱりそういうことを言わなきゃいけないと思う。そういうところも含めて、けっこう緊張感がなかったですね。

――ある種、本音を隠して、自分を演出するというか。

渡辺：
自分目線でしか見れてない感じはあるかもしれないですね。でも、その感じは、僕もよくわかるんですよ。僕も高校をドロップアウトして、そのあとにレコード会社に入るために大学に入って、自分は何者かになると思っていました。ちょっと変で、社会常識もないけど、そんな自分をどっかが拾ってくれるはずだって心の中で思っていて。でも、どのレコード会社にも入ることができなくて、それでも自分のダメなところに気づかなかったんです。“俺を会社に入れてくれれば、めちゃめちゃいいことやるのに”っていう想いだけを持っていて。オーディションで落ちていく子たちもそれと同じなんですよね。

――実は、過去の渡辺さんと共通するところがあると。

渡辺：
そう。彼女たちが事務所に入ればなんとかなると思っているのもそうですし、自分の素を認めてほしいみたいなところとか。ウチの事務所に入った子たちにも言うことなんですけど、いわゆるネイキッドでいること、自分らしくいることはすべてが正解じゃない。もちろん自分らしさを出す努力は必要だけど、いろんなものを我慢した上で、最終的に自分を出さなくてはいけない。それは昔の僕も理解できていなかったことなので、もちろん彼女たちも理解できないていないと思いますよ。だからこそ、合宿っていうのはそういうことを教える場なのかなと。ただ、年を重ねるごとに、“ご飯は全部食べる”とか“必死に頑張る”とかできないなんて言ってられないってことが理解してもらえなくなっているところはあります。自分が何もしなくても、事務所がいつかヒロインにしてくれると思っているというか、自分を曲げることはできないって考えているというか。

――最終的には、自分の力で道を切り拓いていかなくちゃいけないところはありますよね。

渡辺：
アイドルになる子って、誰でもポッと出たぐらいでも5人ぐらいファンがついて“可愛いよ”とか“好きだよ”って言ってもらえるじゃないですか。それぐらいで“武道館に立ちたいです”とか言うんですよ。でも、立てるわけないじゃないですか、何も努力していないわけだから。僕だって、事務所をちょっとでも大きくしようって身銭を切っていろんなプロモーションをしたりとか、血の滲むような努力をしてきたわけですよ。なぜ、僕のそういうところを見ないのか不思議で。そこは合宿の参加者もそうなんですけど、BiSのメンバーも同じだったんです。彼女たちも、自分たちの話しかしない。“こんな状況じゃ、自分たちはBiSを守れないし、BiSがかわいそう”とか言ってましたけど、別にお前たちなんかにBiSを守ってもらわなくてもいいよって思いました。“この9人でBiS”って免罪符のように言ってましたけど、それも結局自己弁護でしかなかったという。それがすごい悲しかったです。