オーディエンスの“声”が戻ってきた日〜FES☆TIVE主催<赤レンガ スプラッシュ祭>で見た風景|「偶像音楽 斯斯然然」第89回

オーディエンスの“声”が戻ってきた日〜FES☆TIVE主催<赤レンガ スプラッシュ祭>で見た風景|「偶像音楽 斯斯然然」第89回

冬将軍

音楽ものかき

2022.08.27
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8月24日(水)、25日(木)に横浜赤レンガ倉庫イベント広場で開催された<FES☆TIVE presents 赤レンガ スプラッシュ祭>。初日は主催のFES☆TIVEの単独公演、2日目は17組が出演する対バンイベントとなり、観客の発声が解禁されたことにも注目が集まった。今回は、コロナ以前のような熱量のある空間となった同イベントに実際に足を運んだ冬将軍が、その現場で感じたことを想いのままに綴る。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

8月19日に、渋谷6会場で行なわれたNEO JAPONISM主催のサーキットイベント<NEO合戦>。全117組が参加するという大規模なものとなったわけだが、各会場への移動時間や体力的な部分、はたまた入場規制といった物理的な問題により、観たいグループが観られないという事実があったことも否めない。そう考えると、常設されたステージが4つあり、それをすべて1分以内で移動することでき、私が知るところではアイドルフェスのみならずロックフェスに関してもほぼ入場規制になった記憶のない新木場STUDIO COASTの閉館は、ライブアイドルシーンにとっても大きな損失になったように思えてならない。1,000人規模のメインステージのグループを見終わった後、外に出たら駆け出しの気鋭のグループがライブをやっていて、思わぬ出会いが、といったことが多くあった。そういった機会もぐんと減ってしまった残念な事案でもある。

さてさて、コロナによって声が奪われたライブシーンで最近いろいろな変化が起こっている。<SUMMER SONIC 2022>では、ほぼコロナ前の状況に戻ってきている欧米アーティストが日本でライブを行なうとどうなるのかという事例であったり、日本のバンドにおけるそのスタンスや言動が物議を醸しているわけだが、この辺に関しては個人の考え方の差が大きくあるところなのでなんとも言えない。実際私も行ったわけではないので、それに関しては特に言及するつもりもない。ただ徐々に規制緩和が進むライブ事情、中高年の多いロックコンサートの中でのマナーの悪さを感じることは多々ある。これは私の主観ではあるが、コロナ禍以前からアイドルヲタクの方が律儀にルールを守っている傾向がある。

声出しOK! FES☆TIVE主催<赤レンガ スプラッシュ祭>

本来、書いていた記事を急遽変更して書きたいことがある。つい先ほどまで観に行っていた、横浜赤レンガ倉庫イベント広場で行なわれたFES☆TIVE主催<赤レンガ スプラッシュ祭 -Day2->だ。興奮冷めやらぬ勢いでこの原稿を書いている。8月24日の<Day1>はFES☆TIVEのワンマン、8月25日の<Day2>はFES☆TIVEを含めて17組が出演。自分は<Day2>の途中から観た。同イベントで何より注目だったのは“声出しOK”だったことである。声出しOKのアイドルライブイベントはこれまでにもいくつか開催されていたが、首都圏にてこの規模で行なわれるのは今回が初ではないだろうか。

私は、コールはアイドルライブに欠かせないものだと思ってはいたが、自分自身は昔からいわゆる地蔵スタイルとも呼ばれる、じっと静かにライブを観るタイプであった。それもあってか、制約のあるライブスタイルがことのほか快適であり、新たな発見も多くあった。もしこのままの状況が続いたとしても、それはそれでありなのではないかとさえ思っていた。であるから、この非日常が日常となったこの世界が再び変わることに懐疑的な気持ちも少なからずあった。

そんななんとも言えない複雑な心境もあった<赤レンガ スプラッシュ祭>であったが、結論から言うと、声出しOKのライブは最高だった。いい景色を見ることができた。楽しそうにしているヲタクの光景を目にし、その声援を受けて、歌い踊るアイドルたちはいつもよりも3割増しで輝いていた。ヲタクによる決して綺麗とは言えないコールを以て強度が増す楽曲があることも思い出した。

アイドルヲタクというのは律儀なもので、騒ぎたい輩は後方で騒ぐという暗黙の諒解もできていた。前方はチケットのお高い優先エリアということもあったわけだが、ゆっくり観たいのであればそういう場所も多くあったので快適であった。Twitterには“会場の柵をヲタクが破壊した”なんていう画像が出回っているが、あれは寄りかかると倒れてしまう柵が倒れただけのことである。柵の復旧のため転換時間が押したのは事実ではあるが、そこまで揶揄するようなものではない。それとゴミ云々言われているのは、水が撒かれる仕掛けのあるイベントのために入場者全員にビニール袋が配られていた、つまりはビニール袋に入った荷物である。ポイ捨てする人も一部いたが、終演後にスタッフのみなさんの指導のもと、多くの来場者がゴミを拾って帰ったことを、現場を見に行っていた人間としてきちんと伝えておきたい。基本的にピースフルなイベントだった。

コロナ禍がもたらしたものは何だったのか。当コラムでも幾度となく触れてきた話題である。どこか異世界感もあって躊躇していた層がアイドルライブに来るようになったこともある。私は10数年前に初めてアイドルのコンサートに行く時、Berryz工房だったが、コールやヲタ芸(ハロー!はミックスがタブーなので)をやらないと隣の席のヲタクにつまみ出されるんじゃないかとビクビクしていた。ハロー!プロジェクトのホールコンサートですらそう思っていた(のは私だけではなかった)のだから、ライブハウスでのライブアイドルのライブなどであれば、なおさらであろう。実際コロナ禍になってから、グループによっての差はあるものの、全体的に女性ファンの比率は増えたと感じている。

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