オーディエンスの“声”が戻ってきた日〜FES☆TIVE主催＜赤レンガ スプラッシュ祭＞で見た風景｜「偶像音楽 斯斯然然」第89回

コールが入って楽曲が完成されるということ

Peel the AppleがMC中にコールについて嬉しそうに話していたり、そういったコールの恩恵を感じる場面は多々あったのだが、そのパワーを痛烈に感じたのはまねきケチャだ。「冗談じゃないね」は、それより前に登場したナナランドも披露していた楽曲だが、本家本元の披露に湧き上がる会場。アイドルの歌声にヲタクのコールが重なって、心地のよい不協和音を生み出してこそ完成する楽曲なのだと2年半振りくらいに思えた。当時はそれが当たり前で、時に鬱陶しさすら感じていたコールやMIXがこんなにも愛おしいものだとは……。わちゃわちゃ騒々しい楽曲なのになんだか感動すら覚えて目頭が熱くなっていたら、前にいたFES☆TIVEのヲタクの方に“まねき（ヲタ）の方ですか、どうぞどうぞ”と前を譲られた。いや、そういうわけでもないのだが……と思いつつも言われるがままに通常エリアの最前で観た。見知らずのヲタクさん、その節はありがとうございます。そう感慨深くライブを観ていたら「きみわずらい」で涙腺が崩壊……。ああ、なぜに中年のヲタクというのはこんなにも泣いてしまうのだろうか。

そして、大トリのFES☆TIVEである。私ごとではあるのだが、アイドルとはまったく関係のない仕事で、以前勤めていた音楽事務所で一緒だった先輩のプロモーターと何年振りかに再会したことがあった。その時に“自分、今ライターをやっていて、アイドルとかも書いてるんですよ”と言ったら、レコード会社のプロモーターになっていた先輩が“俺も今メジャーデビューしたばかりのアイドルを担当してるんだよ”と教えてくれたのが、FES☆TIVEだった。だから勝手に妙な親近感を覚えていた。気づけば、フェスやイベントで必ずと言っていいほど目にするようになり、振りコピ横移動はアイドルフェスの風物詩となっていった。だが、コロナ禍になって、そんなFES☆TIVEを観ることができなくなってしまった。

＜赤レンガ スプラッシュ＞で観たFES☆TIVEはあの頃のFES☆TIVEだった。「OIDEMASE!! 〜極楽〜」の横移動も、「ハレとケ！あっぱれ！ジャパニーズ！」のハイテンション具合いもあの頃のままだった。夜空に舞う無数のペンライトを見ながら、“この光景こそアイドルフェスだ”とか、“なんだかんだ言ってこれが見たかったのだ”とか、いろんなことを考えたのだが、それは何よりステージから見る光景こそ格別なのだろう。さまざまなアイドルの取材をする中で“コールを受けたことがない”というアイドルが増えている。それだけコロナ禍が長かったということでもある。同グループ内において先輩メンバーはコロナ禍前の世界を知っているが、新メンバーはコールを知らないというパターンも増えており、こちらとしてはどう反応すべきなのか困ることもあった。そんないろんな思いが駆け巡り、多くのアイドルに対して“この約2年半、よく我慢しました、頑張りました”という、なんだか保護者的のような感慨深い気持ちに見舞われたのである。

しかしながら、あの頃にすべてが戻ったわけではない。あくまで一歩前進しただけのこと。この先はどうなるかわからない。そして、課題もある。今回は柵が倒れただけであったが、また暴走するヲタクが出ることも懸念されるし、なんでもかんでもコールやMIXを入れたらよいわけではないし、私は演者の歌に被せるMIXが大の苦手である。それにグループや楽曲によってはコール、MIXなしに静かに観たい。隣のヲタクが歌ってうるさくて肝心の演者の歌が聴こえないとか……そうやってああでもない、こうでもない論争をくり広げるのも、アイドルシーンならではの醍醐味なのかもしれない。まだまだ制約も多いが、今できることを探していく、それは実に面倒なことかもしれないが、同じくらい面白いことでもあるのだ。