SOL、群青の世界、CYNHN “青”が放つバンドサウンドの可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第78回

SOL、群青の世界、CYNHN “青”が放つバンドサウンドの可能性|「偶像音楽 斯斯然然」第78回

冬将軍

音楽ものかき

2022.03.12
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今回は、楽曲や衣装、コンセプトなどに“青”というイメージを持つ3つのグループをピックアップ。バンドサウンドを中心としながら、耳に残るメロディと高い音楽性を放つ彼女たちの音楽的特徴を、冬将軍がじっくりと掘り下げながら紐解いていく。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

“いい曲”という表現は曖昧なものだが、日本人らしい土着的なもの、普遍的なメロディというものは確実に存在していて。もちろん人それぞれの好みはあるが、“綺麗なメロディ”と形容されるものはある程度、共通認識されているはず。例えば、“青”という色。澄み渡った空、広大な海……、誰だって“青”と聞けば爽快さや清らかさを思い浮かべるはず。はたまた“蒼い”、“碧い”含めて若々しさを連想させるだろう。そして、青は濃くなればなるほど、今度は深海や宇宙を想起させる神秘性を増していく。だからこそ、青を基調とする楽曲、グループには綺麗さ、清らかさを感じるのである。そんな青の普遍性について、触れていきたい。

SOL 澄み渡る青に羽ばたくミライ

“シネマティックエンターテインメントクルー”を掲げ、映画やミュージカルの一幕を観ているようなドラマティックな音楽性を持ったグループ、SOL。衣装もグループカラーも“青”をベースとしている。

2022年2月26日に品川インターシティホールで行なわれた解散公演<ラストシーン>は、ラストながらも湿っぽくはならず、グループの大きな特色でもあるメロディアスな“いい曲”を存分に堪能できたラストライブであった。

これまで未配信だった楽曲と人気投票によって選ばれた楽曲、さらに解散公演で初披露した新曲「ラストシーン」を含む全15曲が収録された、集大成というべきアルバム『SEQUENCE5』は普遍的なポピュラリティを内包しながらも、特異な音楽性を感じることができる傑作だ。

流麗なメロディで始まる「運命のダンス」。インディアで幻想的な香りのするシタールな響きはエキゾチックなイントロの「Caelestis.」に引き継がれる。この異国情緒風情は吹き荒ぶような「クロノスタシス」のメロディとストリングス、ジャジィなホーンとミュージカル調の小気味良さを感じる「ドッペルゲンガーと憂鬱」、鍵盤ホーンアレンジのミュージカル調でハッピーオーラを振りまく「キミだけダイアリー」。晴れやかなメロディとそこを追っていくようなベースラインが心地よい。

SOL「キミだけダイアリー」

SOL楽曲は女性ボーカルらしいメロディと聴き心地のよいサウンド……と思いきや、かなり男前な骨太バンドサウンドで作られているのが特徴である。メルヘンチックなストリングスのイントロと印象的なサビがどことなく『サウンド・オブ・ミュージック』を思い出すような「ママレードバタフライ」は、足癖強めのダブルキックで攻めたりとドラムは手数多め、ベースもメロディに寄り添ってみたり突き放してみたりと、そのラインを追っても面白い。加えてサビ裏で鳴っているスケールアウトするようなギターのパッセージにも注目。

SOL「スターゲイザー」

そしてSOLを代表する、いやライブアイドルシーン屈指の大名曲「スターゲイザー」もしかりである。SOLのサウンドプロデュースチームはNEO JAPONISMと同じく、Saya率いるA-Spellsが行なっている。NEO JAPONISMがキャッチーさを極めつつもヘヴィでラウドなロックで攻めているのに対し、SOLはストリングスやピアノを効果的に使いながら、煌びやかなサウンドにまとめつつ、ひたすらにポップネスを追求している。しかし、本質的なものは両グループとも同じで図太いバンドサウンドで構成されているという共通項がある。根本的なところは同じでも、サウンド構成やミックスバランス、音像の作り方によってだいぶ印象が異なる。バンドサウンドの使い方、棲み分け的な部分を含めて両グループを聴き比べてみるのも面白い。

上記Sayaインタビューでも“誰よりもSOLを愛してる”と語られているように、SOL楽曲の要となっているのは、syosyosyosyosyo。解散公演に向けて制作され、本作にも収められている「ラストシーン」をはじめとし、多くのSOL楽曲を手掛けている。俗に“曲先”と呼ばれる、メロディが先であとから歌詞を乗せる制作方法が多く取られるアイドル楽曲において、メロディと歌詞が同時に作られているシンガーソングライター手法を用いているような、歌心を感じさせる作りの楽曲が多いのもsyosyosyosyosyoの作家性によるところが大きいだろう。

そんなsyosyosyosyosyoが手がけた絶妙な符割りと言葉の妙が織りなす開放的な美メロがたまらない「ミライノツバサ」、そして「ラストシーン」は最期に相応しいドラマティックな展開が印象的な楽曲だ。ディストーションギターの波とストリングスのオブリガードは美しく、捲し立てるようなドラムとベースライン。言葉の余韻を残していくメロディは美しく、SOLのフィナーレを飾るに相応しいものになっている。

グループが解散しても楽曲は残る、聴き継がれていく。

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