SOL、群青の世界、CYNHN “青”が放つバンドサウンドの可能性｜「偶像音楽 斯斯然然」第78回

CYNHN　“未完の青”は“青の可能性”へ

青を掲げているグループで外せないのはCYNHN。上記2グループと同じく、バンドサウンドを武器としているが、オルタナティヴロック、ポストロックといった前衛的なバンドサウンドを武器とし、涼やかながらも攻めに攻めている。

CYNHN「AOAWASE」Music Video

潤いを感じさせる逆回転風のアルペジオギター、ゴリッとした質感ながら下から上まで這っていくベースもいいスパイスになり、ストンと鳴らされるデッドなスネアがやけに気持ちいい。そんなアンサンブルと美しいボーカルの間を優しくそよぐピアノも美しい「AOAWASE」。

2月にリリースされたアルバム『Blue Cresc.』は新曲3曲と新たにリレコーディングされた既存曲で構成されている、4人となったCYNHNの現在の名刺ともいうべき作品。

CYNHN 2nd Album 「Blue Cresc.」全曲トレーラー

ライブで「ラルゴ」をはじめとした旧体制楽曲を聴き、その新しい歌割りによって生まれ変わったグループの可能性と楽曲強度の高さを再認識したわけだが、本作で再録された「水生」「氷菓」といった前体制のイメージの強かった楽曲を改めて音源として耳にすると、それをまた強く感じるのである。倍音と表情を操る綾瀬志希、実直な百瀬怜、瑞々しい月雲ねる、クールな響きを持った青柳透という4人の声色が鮮明になり、シームレスに歌を繋いで、楽曲の世界観を明確にしながらそのメロディラインを濃く浮き彫りにしている。

CYNHN「レア」

「夜間飛行」の怪しさと艶っぽさが増し、そして儚さが共存する雰囲気がたまらない。どこかピュアで少女的な雰囲気の強かった彼女たちが大人の魅力へ近づいたことに気づかされる。「レア」のリズムと言葉が交錯しながら進んでいく様相が心地よい。そして、本作で新境地といえるのは「水の中の」。タイトルどおり、水の中に沈んでいくような楽曲だが泡の音とストリングスによってどこか見知らぬ世界に誘われていく。元the cabsの高橋國光（österreich）の楽曲をケンカイヨシがアレンジ。その予想のつかないサウンドコラージュは音楽芸術そのものである。

CYNHN「水の中の」

オルタナティヴなロックサウンドでいえば、やはり「ごく平凡な青は、」。過去に当コラムでも取り上げているが、本作の再録ではより重心低めで派手な音像に仕上がっており、シングルとは一味違う聴き応えで、イガラシ（ヒトリエ）の傍若無人なベースラインをより味わえるものになっている。しかし、これだけ楽器が好き放題弾き散らかしているのに、歌とメロディを邪魔せず、グループの持つ澄んだ青のイメージを損なっていないのだから、CYNHNの力量とともに、制作陣営のレベルの高さをも思い知らされる。

そして「ごく平凡な青は、」と同じくeba編曲による新曲「アンサンぶる」。邦ロック的なアプローチでCYNHNにしてはストレートな印象もあるが、奇妙で耳に残るリフとオリエンタルなメロディに乗った《アンサンぶって》という強いワードが、遊び心を感じさせる。グループとしての余裕を感じさせる楽曲である。

総じて、本作は現在のCYNHNを知るベスト的でもあり、これからの可能性を感じられる重要作品である。

青をテーマに“綺麗なメロディ”、“いい曲”を持った3つのグループを紹介した。それぞれ清らかで滑らかなメロディ、青の普遍性を放ちながらも、異なる独自性を持ったバンドサウンドで攻めている。赤い炎よりも青い炎の方が温度は高いのである。