日向坂46「君しか勝たん」のどこかつかみどころのない語感はJ-POPのトレンドになり得るのか?|「偶像音楽 斯斯然然」第58回

日向坂46「君しか勝たん」のどこかつかみどころのない語感はJ-POPのトレンドになり得るのか?|「偶像音楽 斯斯然然」第58回

冬将軍

音楽ものかき

2021.06.05
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日向坂46が、5月26日(水)にリリースした5thシングル「君しか勝たん」。王道で普遍的なアイドルポップスである表題曲に、冬将軍が覚えた違和感。今回は、その同曲が放つ“つかみどころのない語感”の正体と、J-POPにおけるメロディへの嵌め方を、“アイドル深読みコラム連載”の本領を発揮したディープな視点で語り尽くす。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

日向坂46のニューシングル「君しか勝たん」。キラキラと煌めきながらも飾られていない、いい意味で素朴な良メロが心地よく、どこか懐かしさを感じる普遍的なアイドルポップス。作曲者のデレク・ターナーとは何者なのか?と物議を醸すのもよくわかる、いい曲である。

日向坂46「君しか勝たん」

気になるところを挙げるとするならタイトルだろうか。SNSやLINEで生まれたネット的文語であり、実際口に出してはあまり使わない言葉をタイトルに持ってきていることが興味深い。ワードセンスがどうとか、ちょっとダサいんじゃないかとか、そこは個人の好みもあるにせよ、「君しか勝たん(きみしかかたん)」……って、発音しにくいじゃないか。

「君しか勝たん」で覚える違和感

実際、キメの《君しか 君しか勝たん(きみしか きみしかかたん)》というフレーズは、メロディと音符、符割りにはきちんと準えているのだけれど、リズムに対する発音がハマってないような違和感を覚えてしまう。キメのフレーズであるのに、なんだか楽曲が締まらなく聴こえてしまうのは気のせいではないだろう。サビやキメには歯切れのよいフレーズを持ってくるのが一般的であるが、“か”の被せや、“ん”を伸ばすなんて、本来避けるべき作詞法でもある。にも関わらず、良メロとそこをなぞる少女性のあるピュアな歌声によって、スッと耳に入ってきて何度か聴いているうちに“これはこれでアリなのかも”と思えてしまう。この違和感から生じる謎の納得への導きは秋元康の策なのだろう。現に日向坂46の楽曲を見れば、歌い手の滑舌泣かせの《キュンキュンキュンキュン》を連発する「キュン」(2019年)や、聴き手の音感すらをも撹乱していく「ドレミソラシド」(2019年)といった、J-POPにおける歌詞セオリーを無視しているような作詞が目立つ。

「君しか勝たん」、このキメフレーズだけではなく、《表面張力》もメロディにハマりづらい語感を持ったアクセントのない言葉であるし、《どの恋の(どーのこいの) 思い出も(おーもいでも)》であったり、少々強引にも思える詞の引き伸ばしも見受けられる。J-POPにしてもJ-ROCKにしても、歌詞を伝えることを優先させ、時に字余りになるほどの詞を詰め込むことが常套手段となっている中で、こうした音符に忠実な古典的な唱歌風の詞の当て込みは、時代に逆行しているものかもしれない。

音符に正直であるはずに、詞の収まりの悪さを感じてしまう。でも冷静に考えれば、譜面的な“歌”としては本来こちらの方が正しい姿なのではないかと……。これも“なんでもあり”なアイドルだからこそ許される、“可愛いは正義”というわけか……、一瞬そう思ったものの、そんな安易なものでないような気がしている。あえて言葉を詰め込まないことはもちろん、濁音や鋭利な発音をあえて用いないようにしている節もある。この“やわらかさ”、“すべらかさ”を通り越した“つかみどころのない語感”こそ、アイドルに限らず現在の、これからのJガールポップ詞の新基軸、新たなトレンドになるのではないか。

「君しか勝たん」があまりに王道で普遍的なアイドルポップスであるから、最初は気がつかなかったのだが、詞の置き方に今どきなK-POP的な手法に似たものを感じたのである。

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