日向坂46「君しか勝たん」のどこかつかみどころのない語感はJ-POPのトレンドになり得るのか？｜「偶像音楽 斯斯然然」第58回

つんく♂とロック詞

プロデューサーとしてだけでなく、作詞家としても秋元康と比較されるつんく♂は、乙女チックな詞の世界観と同時にリズムに対しても異様なほどのこだわりを持っていることで知られている。歌唱自体はもちろんのこと、作詞においても同様で、符割りとリズムに対する詞の置き方が絶妙である。時に日本語の文節を無視してみたり、イントネーションやアクセントの位置をズラしてまでも符割りのリズムを優先させる。それが逆に、非日本詞的な聴感を生むことも多くある。この作家性は氏がロックバンドのボーカリストという、実践に基づいたものから生まれたものであることは言うまでもない。

原曲のタイ語の空耳を絶妙な日本語に昇華させたつんく♂作詞、Berryz工房「cha cha SING」（2012年）

日本語詞とリズムの関係性は90年代のロックシーンで急速的に発展したものでもある。 バブル崩壊も起因してか、“サビは英語”といったバンドブーム時に多く見られた、いい意味での上調子なものから、重々しい言葉が好まれていった風潮もあった。作詞家の森雪之丞はそれまでのアイドルソングやアニメソングといったキャッチーな言葉選びから、hideや布袋寅泰といったアーティストへの作詞を機に、のちに“中二病”とも呼ばれるようなV-ROCKの礎となる退廃的で耽美な様式美を広めている。

ソドム、採集、残像ヴィーナス……日本語と英単語の絡ませ方にのちのV系美学を感じる森雪之丞作詞の代表曲、hide「EYES LOVE YOU」（1993年）

オルタナティヴロックの影響力も大きい。海外のラップメタル、ラップコアの影響下、日本で生まれたミクスチャーロックはそうしたメロディ、リズム、詞の関係性を深化させた。hideはギクシャクした響きを持つ四文字熟語や慣用句をリズムに嵌め込み、英詞的に聴かせることはもちろんのこと、反対に日本語を空耳して英詞にすることもやっている。それまでの日本語ラップといえば、どこか力の抜けたイメージもあったのだが、子音のアクセントを多く用いることで鋭い聴き心地になっていったのである。これはラップだけでなく、それまでロック＆ポップスには英詞が合うとされていた風潮を大きく変えていった。