日向坂46「君しか勝たん」のどこかつかみどころのない語感はJ-POPのトレンドになり得るのか？｜「偶像音楽 斯斯然然」第58回

「J-POPは洋楽」というWACKとカオスティックなアイドルソング

そうした、つんく♂のボーカリスト視点のリズムとロック的な発音解釈を用いながら、言葉とリズムの関係を巧みに操っているのは、WACKだ。渡辺淳之介＆松隈ケンタによる詞とメロディが生み出すマジックは、耳だけではわからない、歌詞を見ながら聴くことによって発見することが多々ある。

日進月歩、胸いっぱい愛、こればっか……促音と韻の踏み方のアクセントが絶妙なBiS「WHOLE LOTTA LOVE」（2018年）

“日本語っぽく歌う方がナンセンスだと僕は思っていて。J-POPって洋楽だと思ってる”、“日本人って母音主体でしゃべるんですよ。アイウエオを1番最初に習うくらいなので。だから子音が苦手”……という、ボーカルディレクションに定評のある松隈のこだわりについては、以前私がインタビューで多く語られている。

また、初期ももいろクローバーでの前山田健一のマッシュアップ風や、でんぱ組inc.などの玉屋2060%の“電波ソング”も、はちゃめちゃな言葉ととてつもない情報量を詰め込みカオスティックながらもアイドルシーンに革命をもたらした。

洗練されたメジャー感とは無縁の方法論で一世を風靡した、でんぱ組.inc「でんぱれーどJAPAN」

そうした中で、秋元康は歌謡曲〜ニューミュージックの延長線上にある、普遍的なポップスを生み出してきた。ハロー！プロジェクトやWACKとは違い、ユニゾンのボーカルスタイルがそうさせてきたこともあるとはいえ、“男性目線”や“清廉性”ともいわれる歌詞は、耳馴染みのよい言葉選びとやわらかい聴感を重視してきたように思える。であるから、日向坂46「君しか勝たん」のようなつかみどころのない詞に行き着いたのも自然な流れであるのかもしれない。力強いイメージのある欅坂46に相反するところもあっただろうし、果たしてそれがK-POP意識なのかはわからないところであるが、世の中的にも、やわらかな聴感を求めている風潮があるのではないかと思えてならないのである。

日向坂46「ドレミソラシド」（2019年）

ストリーミングが主流になりつつある音楽の楽しみ方の中で、歌詞を見ずとも、深読みせずともスッと耳に入ってくるような歌を、我々は求めているのかもしれない。少なくとも、周りくどい講釈を用いたがる当コラムのような文章を書く私のような面倒な人間にとって、日向坂46は清涼剤のような役割になっているのは確かなのである。