困難な時期に切り拓くアイドルシーンの新たなる希望［株式会社神宿 代表取締役インタビュー］「神宿が国民的グループになることによって、アイドルマーケットに対しても大きな活力を感じてもらえるきっかけになる」株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー後編

2021年は、ファンのみなさんと一緒に神宿を盛り上げていきたい

──最近はエンタテインメントを楽しむ時間というか、“我慢できる時間”って言っていいのかな、それが短くなってきているような気がしていて。自分自身もそうだし、周りのスタッフと話していても、YouTubeで10分を越える動画を観る時にちょっと覚悟がいるし、ライブDVDや映画を1本を一気に観るのは躊躇してしまうことが少なくないです。

柳瀬：
それこそTikTokで、サビしかない曲を上げてそれがバズるみたいなことも出てきたりしていますよね。ただそれは、いいことでもあり、悪い面もあると思うんです。今の話を聞いて思ったのは、YouTubeで、例えば“あのタレントが浮気・不倫しました”とか、“この新しいお菓子、美味しいです”とかもそうですけど、旬には乗っかっていて再生数は稼げるんだけど、じゃあ1ヵ月後にその動画を観るのか？といったら観ないものもたくさんあるじゃないですか。そこまで考えると、“消費するエンタテインメント”と“残っていくエンタテインメント”って、そこに価値があるかどうかで、別れていくんじゃないかなと思うんです。

──残っていくエンタテインメントという話に関連してお伺いしたいのですが、アイドルが活動期間を延ばす1つの方法としてアーティスト化することが挙げられると思います。ただ、このアーティスト化は、アイドルであった過去を否定してしまうということが起きがちになります。柳瀬さんは、この辺りにはどういう考えをお持ちですか？

柳瀬：
日本のエンタメ市場においてアイドルという概念を再考するフェーズに来ていると思いますし、アップデートしていく必要がある。情勢に背中を押されて、グローバリズムの波もあり、BTSのような、アーティストとして語られるアイドルも増えてきた。“若くて可愛い”だけを武器に接触ビジネスで消耗戦に巻き込まれてしまうとコンテンツが育たないのは事実です。ただ、あくまでもアイドルを否定する必要はなくて、僕たちもそういう立場は取っていない。アイドルとして“含んで越える”というイメージなのかなと個人的には思ってます。神宿は、従来の王道アイドル像を含みながら、越えていくことを目指しています。

――ありがとうございます。それでは、最後に神宿チームと、神宿の今後について教えていただけますでしょうか？

柳瀬：
神宿チームに関しては、分社化ではないんですけど、起業している会社がいくつかあって。それこそファウンダーの北川さんが『LiEN（リアン）』というプロモーションプラットフォームを立ち上げられました。かなり画期的なプラットフォームで、ここで説明するのは時間がかかるので割愛しますが、日本のエンタメ市場にとって必要なプラットフォームだと思っています。一方、去年8月に吉川さんが『soyogu.』という会社を立ち上げて、新しいハイブリッドなライブ制作のスタイルを体現していくということを行なっています。で、僕が去年の8月31日に『マトリクスエンターテインメント』という会社を立ち上げました。原盤投資というビジネスモデルを軸にしたデジタルレーベルとして起業しています。これは、音楽ストリーミングの可能性をすごく感じたことがきっかけなんですが、神宿に限らず、MVを撮ったりレコーディングすることはお金がかかりますけど、日本でそれをバックアップしてくださる企業さんってなかなかいない。昔はレコード会社がお金を持っていたので、レコード会社がファンドのような役割を担っていたんですけど、今はそれが厳しい。もちろん一部のレーベルの一部のアーティストには潤沢な資金があるんですけど、特に新人アーティストはノンバジェットみたいなプロジェクトも多いんですね。ただ、例えばですけど、鈴木さん、絵を買われたことってあります？

──絵を買ったことはないですね。

柳瀬：
僕もたくさん買ったりはしないですけど、最近現代アートがすごく好きなので、たまに買うんですね。現代アートって資産価値があるんですよ。なので、100万円で買った絵が1億になるかもしれない。逆に言うと50万円に下がるかもしれないんですけど、一連のスキームを利用して富裕層が節税対策の一環として買うことすらあるんです。だからお金が回るマーケットだと思うんですね。となると、現代アーティストにとってはチャンスでもあって、例えば前澤（友作）さんが買ったとなると、値段がハネ上がるわけですよ。もちろんその業界には業界なりの課題があるにせよ、夢のある話ではありますよね。一方で音楽は？　音楽って資産価値があるのに、みんな資産価値がないと思ってませんか？……って僕は思ったんですよ。理由はシンプルで、CDだったからです。CDっていうのは、例えば1,000枚刷って1,000枚売れたら、廃盤になるか、もう1回1,000枚刷るか、どちらかじゃないとダメなんです。ということは、誰かがリスクを持ち続ける必要があるし、それがなくなった時にはもう手に入らないものになってしまうんですね。それがストリーミングによって根底から覆りました。楽曲を配信したことによって、自分の孫の世代までその曲はアーカイヴされるんです。つまりカタログに残る。そうすることによって、その曲の原盤権って金融商品としての資産価値があるんじゃないの？というのが、僕が立ち上げた会社で提唱していることで、実際アメリカでは売買されているんですよ。

――原盤の売買に関しては、海外では時折話題になりますね。

柳瀬：
以前、マイケル・ジャクソンが持っていたビートルズの原盤権をポール・マッカートニーが買う準備をしているというニュースも出てましたよね。最近で言うと、ジャスティン・ビーバーのマネージャーのスクーター・ブラウンが、ジャスティンが売れたことによって成功者になって巨万の富を手に入れて、彼の会社（イサカ・ホールディングス）がテイラー・スウィフトのレコードレーベル（デビューから28歳まで契約していたビッグマシン・レコード）を買ったんです。確か、約325億だったかな。で、2年後くらいに別のファンドに同じ価格で売った。その間は当然テイラー・スウィフトの7枚分の原盤の収益が彼の会社に入っていることになりますよね。テイラー・スウィフトからしたらふざけるなという話ですし、めちゃくちゃ怒っていましたし、こういう事例はいくつか出てきています。その善し悪しは今置いておいて、音源が再生されている間はずっとお金が入ってくるということなんです。これって金融商品ですよね。ということは、売買が行なわれることは全然あり得ることですし、新しいアーティストが音源を作りたいという時に、このアーティストの新しい楽曲の金融商品としての価値はいくらだと見積もれるから先払いするよ、ということもできたりするんです。なんとなくその先駆けとして、ヨーロッパの会社の中に、アーティストに対して先払いするというビジネスモデルをやっているところもあるんです。そこで日本における課題は、さっきも話したとおりアーティストやアイドルにお金が回ってこないということなので、そこを音楽ストリーミングというシステムを切り口に、ある程度回っていくような“ビジネスエコシステム”を作れないか、ということで起業したんです。これから時代が変わって行く中で、音楽ストリーミングはもっと盛んになっていくと予測しています。

――神宿の今後はいかがでしょうか？

柳瀬：
順を追っていろいろと解禁していくと思うんですけど、神宿は今年の9月で丸7年になるんで、いろいろと面白いことができたらと考えています。そこに向けて2021年は、ファンのみなさんと一緒に神宿を盛り上げていきたいです。

――さっきおっしゃっていた形ですね。

柳瀬：
そうですね。例えば、気持ちはすごくあるけれどお金は出せないというファンの方もすごく貴重で、1回でも多くリツイートしてもらうとか、神宿のいいところをツイートしてもらうとか、可愛い絵を描いてくださる方なんかも神宿にとってはすごく必要でなんですね。一方で、すごく能力があるよというファンの方がいたら、ぜひ一緒に仕事しましょう！と思ってますし、その境界線を崩した先にどんなコミュニティができるのかということを、今年1年で全員の成果として目指していけたら嬉しいなと思ってます。

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