赤裸々に語るこれからのアイドルビジネス戦略[株式会社神宿 代表取締役インタビュー]「アーティストビジネスは、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかが重要」

赤裸々に語るこれからのアイドルビジネス戦略[株式会社神宿 代表取締役インタビュー]「アーティストビジネスは、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかが重要」

赤裸々に語るこれからのアイドルビジネス戦略[株式会社神宿 代表取締役インタビュー]「アーティストビジネスは、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかが重要」株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー中編

全3回にわたる“コロナ禍のアイドルマネジメントを探る 世界のアイドルそして神宿の未来について”をテーマにした株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビューの中編。今回は、神宿の5つの戦略軸の中から“EC”と“YouTube”について。メンバーの時間を切り売りするというビジネスモデルから脱却しなければならないという思想をもとに取り組んでいるEC、そしてチャンネル登録者数や再生回数を活動の指標としていないという神宿の独自のYouTube活用について、柳瀬氏が実情を挙げながら語りつくす。

メンバーとグループの資産価値を上げていかなければならない

──そのマネジメントという点で言うと、このコロナ禍中、アイドル本人がモチベーションをキープできなくて辞めてしまうことをSNSなどで見るんですが、柳瀬さんは神宿メンバーのモチベーションをどのようにキープしようと考えていますか?

柳瀬:
モチベーションを引っ張るみたいなおこがましいことを考えることはほぼほぼなくて、それぞれの意思決定においてみんなにとって最善の状況を作ることができれば、活動を続けると考えています。これはメンバーだけじゃなくてスタッフもそうです。なので、その環境作りをするということは心がけています。

──個々人の意思に働きかけるのではなく、あくまで“働く場”を最善のものにするということですね。

柳瀬:
そうですね。この話が出たのでまた話題が逸れますが、アイドル業界がどうなっていくのか?という未来の話をしたいんですけど、日本のアイドルマーケットって、まだ全然成熟していないと思っていて、世界のアイドルマーケット──欧米や韓国はすごく先を行ってるなと思う部分があります。もちろん音楽だったり、そのコンテンツ自体の好き嫌いがあるので、あくまでマーケットとかビジネスに限って話をさせていただきますが、例えば、僕はホテルが好きで、昔から日本全国いろんなホテルを泊まってきていて、そんな話を知り合いの代理店の社長さんにした時に、ホテルチェーンの経営者をご紹介いただけることになって、そこでうかがった話がとても面白かったんです。じゃあ、ここで鈴木さんに答えていただきたいんですけど、とあるホテルがあります。あなたは明日からそのホテルの支配人になります。最初の1日目、まず何をしますか?

──なるほど……そうですねぇ……部屋の掃除ですかね。

柳瀬:
おお、なるほど。

──なぜかというと、部屋の掃除をすると、そのホテルがどういう風に使われているのかがわかるかなと思ったんです。

柳瀬:
なるほど。面白いですね。これ、必ず採用面接で聞くそうなんですが、答えがあるわけじゃなくて、例えば“フロントの人の接客を見ます”とか、“レストランの料理の美味しさをチェックします”とか、それこそ“部屋をちゃんと掃除しているかどうか見ます”とか、いろんな観点があるんですよ。で、その方がおっしゃっていたのは、“数字を見ます”と。要するに、どれくらい部屋が埋まっていて、1泊当たり平均いくらで出しているのか、その数字を見て分析しますということなんです。なぜかというと、ホテルって、1泊目に利用するお客さんが、そのホテル自体に泊まるを目的に来ることはほとんどなくて、例えば、これから行くコンサート会場の近くの立地とか、主目的に付随して選ばれるんです。だから、WEBサイトの画像とか口コミを見て来ることはあるにはあるんですけど、フロントの人の笑顔とか、レストランの料理の美味しさ、というところを伸ばしていったとしても、それがそのホテルに来る理由にはならないんです。あくまでホテルに来てもらうということを考えると、今どういう状況なのかを分析する必要があるということを教えてもらった時に、僕もハッとさせられたんです。将来的にホテルをやりたいと思っていたので、“どんなホテルをやりたいですか?”って聞かれた時に“こういう内装で、こういうサービスで”みたいなことを言ったんですけど、そもそもホテルビジネスって“不動産業”ですよ、って言われたんです。

──ホテルが不動産業?

柳瀬:
例えば、分譲マンションは長期的、賃貸であれば短期的に、そこに居住する権利を貸し出すことになりますよね。マンスリーとかウィークリーマンションだと、1週間、1ヵ月分の対価を受け取ってその権利を与える。その点、ホテルというのは1日という単位で滞在する権利を分配しているものになる。つまり、軸は不動産業ということなんですね。これって、ライブハウスが飲食業だってところとすごく近くて、シンプルに“顧客数×顧客単価”というビジネスモデルなんですよ。だから、ホテルは顧客数を上げるか、顧客単価を上げるしかないんです。そのためにできることっていうものを上から順番に並べていくと、フロントの接客とかレストランの味というのは優先順位として上には来ない、というのが彼の話なんです。これ、すごく面白いなと思ったのは、確かに顧客数×顧客単価なので、100室あったとしたら、当然90部屋以上埋まっている方がいいし、1泊1万円で出すよりも2万円で出した方がいいに決まってるんですけど、実は裏にもう1つのビジネスモデルがあるという話を聞いたんですよ。何だと思いますか?

──新しい問いですね(笑)。こちらの方が難しいですね。

柳瀬:
そうですね(笑)。正解を言うと、“○○ホテルが□□ホテルグループにXX億で買収されました”というようなニュースをたまに見ますよね。実はこれって、ホテルの資産価値を上げるという裏のビジネスモデルで、これが非常にアイドルに似てるなと思ったんです。アイドルに限った話ではないと思いますけど、マネジメントって、動員人数とチケット代の売り上げで見ればけっこうシンプルな掛け算になるんです。これは神宿がどこかにセルアウト(売却)するとかそんな話じゃなく、メンバー1人ひとり、そして“神宿という資産価値”を、僕たちマネジメントが上げていかなければならないということなんです。なので、資産価値が消耗されるようなことをお金に替えてしまったら、神宿というコンテンツIPはどんどん廃れていくことになる。また、ホテルを例にすると、『一休』とか『楽天トラベル』とかの評価を上げていくことは重要で、もともと3.0だった評価を4.5まで上げて、売り上げは1.2倍にしたとします。ここで売り上げは“1.2倍しか”伸びてないような気がしますけど、実は資産価値が上がっているんですよね。それによって、ほかのホテルグループより買収の話が来た時に、日々の収益とは桁違いの額のビジネスになる。アーティストビジネスって、ある意味、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかってことが重要だと思うので、先ほどの(アイドルが辞めてしまうという)話に戻すと、いわゆるアイドルマネジメントがある施策を行なう時に、それがそのアイドルの資産価値を上げるものなのか? 下げるものなのか?をジャッジできていない可能性があるってことなんです。

──目先の収益は上がっていても、資産価値は下がっている場合があると。

柳瀬:
そういうことですね。それを感じ取ることはすごく難しくて、僕自身、現場に赴いたり、日々いろんな数字を見ていて思うのは、YouTubeの動画1本で、ファンのみなさんのエンゲージメントがグラついたりすることって当然あるってこと。例えば、思いつきで言いますけど、年に10億の売り上げがあって、それに対して“ファンのエンゲージメント”が30%落ちるという施策があったら、年間で3億円分もマイナスになる。それくらい重大なことなんですけど、あまりそこにフォーカスしないんですよね。目先の売り上げを見ていると、コンテンツIPがどうなっているか、とか、ファンのエンゲージメントがどうなってるかというところを、どうしても見逃してしまう。いわゆるアイドルマネジメントに対する考え方って、事務所によっても違うと思いますし、プロデューサー、マネージャーによっても違うんですけど、そもそもアイドルマネジメントとは何か?という“土台”の部分の認識がけっこう重要なんじゃないかなと。なので、神宿も、例えば“水着のグラビアやらないの?”みたいな話がたまに出ると思うんですけど、そういうのも、そこ(資産価値が上がる施策か、下がる施策か)に紐付けて考えたら至極当然な話として理解していただけるんじゃないかなと思います。

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