神宿が提示するアイドルエンタテインメントの新たな可能性［株式会社神宿 代表取締役インタビュー］「日本のアイドルの“大人が操ってる”というイメージに少し違和感があった」株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー前編

全国ツアーを回り続けることはかなり特別なことだと思っている

──それぞれ詳しくお話を聞かせてください。

柳瀬：
まず1つ目のライブツアーから振り返ってみると、当時“ライブなんて当然できないでしょ”って雰囲気になりましたよね。でも、先ほど言ったとおり、僕らは2年分の会場を持っている状況で、さらにそのあとに確保した会場もたくさんある。とはいえ、会場さんの立場もあり、イベンターさんの立場もあり、吉川さんのライブ制作会社の立場もあり、で、僕たちマネージメントの立場もあり、自治体の立場もあり、けっこう議論しなければいけない方々がたくさんいたんですね。ただ僕たちとしては、遠征してくださるファンの方がたくさんいるという考え方なんですね。通販（EC）のデータで言うと、東京の方は15％くらいと2割以下で、それは神宿がリリースイベントでも何度も全国を回らせていただいて、全国のファンの方とのコミュニケーションをすごく大事にしていたということも大きいと思うんです。でも、もし神宿が東京でしか活動できないということになったら、北海道の方はなかなか会いに行けませんよね。自分の会社から注意されるかもしれないし、家族から“東京に行くなんて、何言ってんの”って言われるかもしれない。そういうお客さんに対してどういうエンタテインメントを届けるべきか？ってことを、まずメンバーとスタッフで話し合ったんですよ。で、神宿は今、UUUMさんともご一緒させていただいていたり、いろんな企業さんのバックアップのもと活動できている状況が多分にあるんですが、とはいえ独立系で、どこかと専属契約をしているわけでもないので、逆に僕らじゃないとできないことがすごくたくさんあるっていう話になったんです。すごくリスキーだなと思うものもあるんですが、最悪の最悪、そこは腹を括っちゃえば、純粋にお客さんのことを考えられるんじゃないか、と。

──腹を括るのは、相当な覚悟がいりますよね。

柳瀬：
もちろんコロナって命に関わる問題ですし、それに加えて、例えばメンバーやスタッフの誰かが感染した場合、関わっているスタッフの数も多いので、みんなの生活をどうするのか？という資金的な問題も当然出てきますから、その両方をクリアするのはかなり難しいのは確かなんです。ただ、普段の生活においてもリスクはゼロじゃない。例えばライブ中に、照明が落ちることだって万が一あるかもしれない。そういう状況の中で、どういう判断基準で意思決定をしていくのかと考えた時、“腹を括る”という表現が正しいかどうかはわからないですが、僕の立場としても“腹を括る”必要があると思いましたし、ライブ制作の吉川さんもそこに賛同してくださったんですね。そしてメンバーもスタッフも理解してくれた。その土台ができたので、各自治体、イベンター、会場さんのレギュレーション（規制）のもと、全国ツアーを回り続けることができたんです。そうすることによって、お客さんの方から東京まで会いに来るのではなく、僕らの方から会いに行くことができる──これはかなり特別なことだなと思っていて、あえて神宿の“戦略の軸”だと言わせていただきたい最も大事なものが“ライブツアー”になるんです。

──やはりリスクを引き受けないと、ファンに向けて価値のあるエンタテインメントは届けられないと思います。

柳瀬：
もちろん僕1人が腹を括ったわけじゃなくて、チームだったからこそできたことですよね。みんな前は向いてるんですけど、怖いよねとか、難しいよね、っていう気持ちはありますし、実際、会場からNGを出されてできなかった公演もあったんですよ。ただ、意外と会場さんもイベンターさんも、イベントをやりたいんですよ。やりたいというか、やらないといけないという部分ももちろんあったと思いますし。

──やらないと生きていけない。

柳瀬：
そう。ライブ業界全体がチキンレースみたいになってしまっていて、辞めるって言うと、“じゃあ、あなたがその責任を全部取れるんですか？”みたいな、非常に厳しい闘いが、実は水面下では日々かなりありまして。

──ライブって、アーティストやマネジメントといった制作者側だけではなく、会場側ではPAさんもいれば照明さんもいて、関わってる方が膨大じゃないですか。そういう方たち全員の生活がかかっているものだから、イベントを中止することが“正しい”とみなされていても、当然一筋縄ではいかないですよね。

柳瀬：
そこは今だに難しいところですね。ただ神宿は、すごくありがたいことに、ファンのみなさんが前向きに応えてくれたんですね。プレイガイド（チケット販売）の方と話すと、全体的にチケットのエントリーがめちゃくちゃ落ちていて、平均すると1/6くらいになってると。さらに、購入してくださった方と実際にライブに来てくださった方の数って本当はそこまで変わらないはずで、普通は90％以上なんですけど、僕たちのライブでも、チケットを買ってくれている人がいるのに、来てくださった方、いわゆる“着券”は6～7割だったりするんです。直前まで行こうと思っていたのに親御さんに反対されたり、友達の分まで買っていたのに友達が行けなくなった、みたいなことがすごく起こっている。エントリー自体が1/6で着券が6～7割だと、そもそも予算の問題としてライブができなくなる状況なんですね。でも、僕らの場合は、ファンの方々が支えてくださったことに加え、吉川さんにいろんな工夫をしていただいて、また吉川さんを中心にいろんなテクニカルスタッフの方がいらっしゃって、みんながライブをやるということにすごく前向きにコミットしてくれたので、腹を括ることができたんです。

──その数字を聞くと、確かに厳しい戦いだと思います。

柳瀬：
メンバーもインタビューで話してましたけど、ツアーをやってよかったと思っています。厳しい闘いに勇気が必要だった部分もありますし、来てくださったお客さんもすごく悩ましかったと思うんですけど、神宿としてのアイデンティティをしっかり守ったライブツアーになったんじゃないかなと思っています。

──神宿って、そもそも対バンイベントというよりはツアーがメインというイメージがあります。

柳瀬：
そうですね。そこについてはあまりお話ししたことがないんですけど、ツアーを回るとなると、やっぱりたくさんの方に来ていただきたいから、土日が中心になる。となると、1年前から会場を押さえないといけないんです。でも一方で、対バンイベントってそんな前から決まらなくて、早くて4ヵ月前とか、場合によっては2ヵ月前とかにオファーをいただくこともあるんですね。ただ、ツアーの稼働があって、移動日があって、レッスンがあって、レコーディングがあって、MV撮影があって、アー写の撮影があって、打ち合わせがあって……となると、もうけっこうスケジュールが埋まっていて、なかなか物理的にイベントの日程が出せないんです。だから優先順位を決めて取捨選択しないと活動ができない……塩見（きら）さんが加入した2019年4月からは常にそんな状況が続いていました。

──対バンイベントにあまり出ていない理由って、そういうことだったんですね。

柳瀬：
対バンイベントをネガティブに思っているということでは一切なくて、神宿のファンの方にとって理想的な活動って何だろう？ということを第一に考えた時に、やっぱりファンの方との世界観を大事にしたいんですね。曲もたくさん聴いていただきたいですし。鈴木さん、対バンイベントの楽屋周りとかって行かれたことあります？　なかなかカオスじゃないですか？

──いろんなグループが、所狭しと入り乱れていますよね。

柳瀬：
集合楽屋の場合、衣装はどこでどうやって着替えるのか？とか、スタッフもメンバーも、動き回ることに1日中、気を遣ってしまう部分もあって、その中で、同じ1日だとしてもファンの方に喜んでいただくということを第一に考えたら、やっぱり単独の方がメンバーの集中力も全然変わってきますし。もちろん神宿を多くの人に知ってもらうために出させていただきたい、出ておきたいというイベントもたくさんありますから、その1本１本には、もちろんワンマンライブと同じような準備をします。そういう意味でも、対バンが中心になってしまうと、ワンマンと同じ集中力で1本１本に臨むことは難しいというところはあるかもしれないですね。

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