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PerfumeからPassCodeへ 意外と知らないオートチューン“ケロケロボイス”の世界|「偶像音楽 斯斯然然」第32回

冬将軍

音楽ものかき

2020.06.06
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ボーカルエフェクトと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。日本の音楽シーンで見れば、多くの人が想像するものは、Perfumeのエレクトロボイスだろう。

Perfume「ポリリズム」(2007年)

よく“オートチューンの掛かった〜”と言われるこのエレクトロボイス。楽曲やグループ自体の世界観を表すために効果的に使用される一方で、一部アイドルファンの中で話題になる“生歌論争”(エレクトロボイス=生歌ではない、というわけではないが)や、“そもそも歌に加工を施すこと自体がイヤ”など、何かと物議を醸す要因になることもある。それだけ広く浸透しているわけだが、そんな中でオートチューンがエフェクトの一種だと思われていたり、“オートチューンの掛かった〜”という表現自体が、本来の意味と遠退いて使用されていることも多い。

オートチューンとは?

オートチューン(Auto-Tune)とは、1997年に発売されたアメリカのアンタレス・オーディオ・テクノロジーズ(Antares Audio Technologies)社の音程補正ソフトウェアである。そもそもオートチューンは、不安定な音程の音声にデジタル信号処理を行なうことで、正確な音程へと機械的に補正するものだ。ただ、この処理を極端に施すことによって歪みが生じ、俗に“ケロケロボイス”や“ケロールサウンド”と呼ばれる、無機的なエレクトロボイスになる。つまり、一般的に“オートチューンの掛かった〜”と言われるようなエレクトロボイスもとい、ケロケロボイスは、オートチューンの本来の使い方ではないのだ。

ボコーダーによるロボットボイスといえば、YMOかPUFFY「アジアの純真」(1996年)

Daft Punk「One More Time」(2000年)に代表される、従来のボコーダーやモジュレーターといった、エフェクターによる“ロボットボイス”とは極端に違う効果が得られるオートチューンの掛け方はもともと、アメリカ人アーティスト、Cherが「Believe」(1998年)で使用したことにより注目を浴び、“シェール・エフェクト(Cher Effect)”と呼ばれた。

Cher - Believe(1998年)

特定楽曲の世界観を強調するような、飛び道具的な使われ方で脚光を浴びたオートチューン、あらためシェール・エフェクトだが、2005年にデビューしたアメリカ人ヒップホップシンガーのT-Painは、楽曲のほぼすべてに掛け、強烈なインパクトを残す。

T-Pain - I'm Sprung(2005年)

我が国ではPerfumeのブレイクによって、どこか保守的な日本の音楽シーンの中で“J-POPでもオートチューンを露骨に掛けてもいい”という新機軸が一気に拡まった。また、ボーカロイドの台頭もあって、エレクトロポップとケロケロボイスの親和性の高さはスタンダードになったのだ。

さらには、ロックバンドのFear, and Loathing in Las Vegasが、ハードコアの攻撃性とダンスミュージックなどの電子音楽を融合させたエレクトロニコアに、ゲームミュージック要素とこのエレクトロボイスを大胆に混ぜながら昇華。これによって、“ピコピコ音+スクリーモ=ピコリーモ”という日本独自の呼称が広まっていく。アイドルポップスでは、BABYMETALはエレクトロニコアの楽曲が多く、アイドルマスターシンデレラガールズや『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場するSaint Snowなど、2.5次元的な世界感にハマりやすいこともあるが、エレクトロポップよりも、ディストーションギターやデジタルビートとの相性を見出した、ラウドミュージックベースのケロケロボイスが増えているところが興味深い。

BABYMETAL - いいね!(2012年)

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