PerfumeからPassCodeへ　意外と知らないオートチューン“ケロケロボイス”の世界｜「偶像音楽 斯斯然然」第32回

“オートチューン”呼称問題

こうしてケロケロボイスは一般的にも知られていくわけだが、すべてがオートチューンで作られているわけではない。音程補正ソフトはオートチューンだけではないし、ほかのものでも同様にケロケロボイスを作り出すことは可能である。現に中田ヤスタカはSteinberg（独：スタインバーグ）社のDAWソフト、Cubase（キューベース）のプラグイン、Pitch Correct（ピッチ・コレクト）を併用しているし、Celemony（独：セレモニー）社のMelodyne（メロダイン）は2012年にグラミー賞の“Technical Grammy Award（テクニカル・グラミー賞、音楽業界とレコーディング分野への貢献者に与えられる賞）”を受賞するほどに影響力がある。さらには、ボーカルの音声データを細く切り刻んで再構築し、ケロケロボイスを作る“ボーカルチョップ”や“カットアップ”といわれる手法もある。

加えて、音程補正ソフトではなく、カナダに拠点を置くTC-Helicon（ティーシー・ヘリコン）や、日本のローランド、BOSSブランドからもケロケロボイスを作ることができるエフェクターが発売されている。つまり、我々が耳にしているケロケロボイスがすべてオートチューンで作られているとは限らないということなのである。したがって、“オートチューンの掛かった〜”という表現は、場合によって“ヤフーでググる”のようなことになってしまいかねない。ただ、“オートチューン（Auto Tune）”は“自動旋律”の意味であるから、一概に間違いというわけではない。

では、外国ではなんと呼ばれているのか？　先述の“Cher Effect”や“T-Pain Effect”が使われることもあるが、近年は“Auto Tune Voice”といわれることが多いようだ。え？　それじゃ日本と同じ“ヤフーでググる”状態じゃないか！　いや、ちょっと待ってほしい。“Auto-Tune（アンタレス社の製品名）”と“Auto Tune（“自動旋律”の意味を持つ言葉）”であるから、意味がまったく異なるのだ。しかし悲しいかな、カタカナ表記ではそれを表すことができない。英語表記をカタカナで表すのは非常に難しいところであり、カタカナ表記が登場したことのないアーティスト名や製品名、“ヴ”問題（これは媒体によってルールがある場合が多い）は、ライター業をやっているといつも頭を悩ますところである。とりあえず、“オートチューンの掛かった〜”という表現に関しては、間違っている場合が多いが、間違っているわけでもないという、なんとも中途半端な結論になってしまった。ただ、ここで説明したような真意を知っているかどうかで、この言葉に対する捉え方が大きく変わることは間違いない。