ドラマ『M 愛すべき人がいて』で学ぶ“歌姫”の時代 浜崎あゆみとエイベックスは何がすごかったのか|「偶像音楽 斯斯然然」第30回

ドラマ『M 愛すべき人がいて』で学ぶ“歌姫”の時代 浜崎あゆみとエイベックスは何がすごかったのか|「偶像音楽 斯斯然然」第30回

冬将軍

音楽ものかき

2020.05.09
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

話題沸騰中の、テレビ朝日×ABEMA共同制作ドラマ『M 愛すべき人がいて』。言わずと知れた浜崎あゆみの自伝的小説のドラマ化である。Max Matsuuraとのあーだこーだの関係はなんとなく気づいてたけど、“今さらここまで生々しく語らなくてもいいじゃん”……なんていう往年のファンの幻想を崩しちゃった“否”の声もあった原作。しかしながら、“事実をもとにしたフィクション”と捉えれば普通に面白い恋愛物語でもあり、“映画化希望!”という“賛”の声も少なくはなく。

そんな中、待望の!?ドラマ化をいざ観てみれば、“ドラマオリジナルの要素を加えたフィクション”という、フィクションにフィクションを重ねた、もう賛否両者ともに“違う、そうじゃない”と声をあげたくなる斜め上すぎる怪作でございました。

“あなたから見つけてもらえた瞬間 あの日から強くなれる気がしてた” うん、誰のこと歌ってるかなんてみんな知ってたよ 浜崎あゆみ「Trust」

“大映ドラマ”を意識した強烈な感情表現の殴り合いと、昭和の使い古された演出が逆に斬新すぎて。至るところに散りばめられた小ネタ(例:“7回目の電話で〜”「appears」など)含めて、こだわっているんだけど大味にもなってる強烈なコントラストに眩暈を起こしながら、ツッコみどころ満載の物語に中毒者続出。

アクの強い登場人物も大変魅力的で、『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ~血まみれの天使~』のフリッガ(クリスチーナ・リンドバーグ)からの『キル・ビル』のエル・ドライバー(ダリル・ハンナ)を、遥か斜め上から越えてきた独眼竜礼香。なんだかわけがわからないがとにかくすごいぞ、田中みな実。

1人だけ昼ドラだし。トドメはニューウェーヴ&ニューロマンティックを具現化した小○哲哉、ならぬ輝楽天明。だいぶ大雑把だけど、映画『映画少年メリケンサック』のTELYA(田辺誠一)を思い出すぞ、アンドロメダおまえ。

いちいちツッコんでるとキリがないというか、それこそが制作サイドの思うツボか。ただ、これだけは言わせてほしいんだけど、現時点でアユの才能がまったく視聴者に伝わっておらず、アユが靴に画鋲を入れられようが、ジュースをぶっかけられようが、礼香様に泥棒猫呼ばわりされようが、そもそもマサがアユの何に惹かれてるのかよくわからないので、まったく感情移入できないんだ……。具体的な理由を言ってくれないか? 僕も納得できないよ(A VICTORY 大浜社長風に)。

“アユを選んだのはオレじゃない! 神が選んだんだ!”by 預言者・マサ

ってことですか、わかりません。

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ドラマの中では、浜崎あゆみはもちろん、TRFやEvery Little Thing、相川七瀬……といった90年代を賑わせたエイベックスアーティストの楽曲がオンパレード。今の若い子たちがこのドラマを観て、あの時代のエイベックスの何がすごかったのか、わかるのかは不明だけど……。とにかく、あの頃、女の子はみんな浜崎あゆみになりたかったんだ——。

エイベックスが築いた制作体制

エイベックスの隆盛を語る上で外せないのは小室哲哉である。

90年代のCDバブル時代を作ったのは、ビーイングブームからのエイベックスブームであり、中でも印象的だったのが“小室ファミリー”と呼ばれた小室哲哉プロデュースの楽曲群。しかし、ヒットチャートを独占していく反面で、量産型の商業的なにおいを感じ、流行として音楽が消費されていくような危機感を覚えていた音楽ファンも多かったのも事実。

だが、TM NETWORK時代から、いち早くシンセサイザーやコンピューターミュージックの可能性を引き出してきた小室が用いたのは、のちのDTM(デスクトップミュージック)に繋がるスタジオワークスの先駆けであり、メロディラインを作る(=作曲者)ことと、楽曲をアレンジする(=編曲者)ことを同時に手掛けるという、今では多く用いられるサウンドプロデュース&トラックメイクのスタイルを確立する。これは、その音楽性とともに1980年代初頭に世界的に流行したHi-NRG(ハイエナジー、ディスコやクラブで人気の高かったダンスミュージックの一種)をポップスに持ち込んだイギリスの音楽プロデューサーチーム、Stock Aitken Watermanの影響でもある。

ちなみに、このチーム制作体制は、現在でいうところのBiSやBiSHなどを手掛ける松隈ケンタのSCRAMBLESが行なっているような形であり、コライト(複数による制作)のパイオニアと言っていいだろう。

Stock Aitken Watermanの手掛けた代表曲 Kylie Minogue「I Should Be So Lucky」(1987年)

エイベックスの成長はこうした小室の影響もあったわけだが、新人の若手クリエイターによる制作体制を積極的に導入していた点にも注目したい。Every Little Thingは、五十嵐充という新人プロデューサーによるユニットであるし、ロックテイストを色濃く打ち出した点にも注目だ。

hide率いる横須賀サーベルタイガーの弟筋にあたる、THE ACEのギタリストだった伊藤一朗(ちなみにTHE ACEのベースはDIE IN CRIES〜BUGのTAKASHI)の起用、鍵盤にハードロックギターを絡めるスタイルは、TM NETWORKへの意識があったと思われるし、さらに女性ボーカル+ハードロックギターという構図は、ジャパメタから続くビーイングの伝統芸へのエイベックスからの回答と言うべきものであると、私は勝手に解釈している。

鍵盤との絡みも相まって、いっくんのギターにSteve Lukatherを感じる Every Little Thing「Dear My Friend」(1997年)

浜崎あゆみの楽曲も、ユーロビートやメガミックスなど、小室サウンドやエイベックスの影響下はありつつも、根本にあるのは若手クリエイターによるロックである。

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