ネオジャポ、raymay、デビアン、そしてラキア 規制解除イベント<特区2020>が教えてくれたライブの価値|「偶像音楽 斯斯然然」第27回

ネオジャポ、raymay、デビアン、そしてラキア 規制解除イベント<特区2020>が教えてくれたライブの価値|「偶像音楽 斯斯然然」第27回

冬将軍

音楽ものかき

2020.03.28
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

リフト、サーフ、モッシュ、ジャンプ、サークル、ダイブ……アイドルのみならず、近年のライブシーンでは危険として規制されることの多い行為をあえて規制しないという、斬新なアイドルイベントがあるという。

“規制を厳しくしなくても良いイベントは作れる、思いやりがあれば素敵なフロアは作れるという信念のもと、僕らは僕らの居場所を作ることにしました”

昨年12月24日に発表されたDevil ANTHEM.、NEO JAPONISM、raymayの3組による共同声明文を掲げ、開催されることが発表された<特区2020>。それは演者とファンの間に絶対的な信頼関係がないと成立しないものだ。

ハードコアやパンク、ミクスチャーロック、ライブハウスでそんな青春時代を過ごしてきた私からしてみれば、あまり規制しすぎるのはどうかと思うこともある。他人に迷惑をかけなければ、楽しみ方は自由でいいんじゃないかって。“ルールはないけどマナーは守れ”精神。だが、守れない者がいるから規制される。そうした中、この<特区2020>が持つ意味はすごく大きいと思う。

2月に渋谷TSUTAY O-WESTで行なわれたVol.1(2020年2月3日)は大盛況だった様子。Vol.2(2020年3月21日)は関西の雄、我儘ラキアをゲストに迎えるというではないか。もうなんかヤバイ香りしかしない。これは行くしかないと、いざ下北沢GARDENへ。

トップバッターはNEO JAPONISM。注意喚起を促すSE「NEO START」も特区仕様。ヘヴィリフが猛り狂う「again」にて今宵の火蓋は落とされる。初っ端なから容赦ないボルテージでステージもフロアもカオスだ。滝沢ひなのがステージ中央に立って両手で宙を裂くような仕草をすると、パンパンのフロアはモーセの十戒の海割れのごとくにぱっくり割れる。ウォール・オブ・デスが乱れる「the force」である。

実はこの日の4組の中で、予備知識が浅かったのがこのネオジャポだった。旧体制は何度か観たことがあったものの、とくに活動を追っていたというわけではなく、昨年12月から始動した新生ネオジャポを観たのは、これが2回目。この日のちょうど1週間前に渋谷WOMB LIVEで行なわれた<OPC fes. -RISING->で、初めてそのアツいステージを観た。そこで心身ともにブン殴られてしまった。以下、しばらく“私がNEO JAPONISMに惹かれたワケ”を文字量と熱量多めで綴る。

極東ハードコア NEO JAPONISM

<OPC fes. -RISING->の会場、WOMBはクラブであるために普通のライブハウスとは鳴り方が少し違う。オケとの相性もあったり、各グループによる外音の鳴らし方の違いが顕著なので興味深い。その中で、やけにカッコいいスピーカーの鳴らし方をしていたのがネオジャポだった。レンジの取り方も、中抜けしたドンシャリのギターも、もろに自分好みで惹き込まれてしまった。

“あれ? こんなグループだったっけ!?”と驚愕した NEO JAPONISM「again」

その音楽を言葉で説明するのなら、“ネオヴィジュアル系御三家(ムック、メリー、蜉蝣)とWACK(BiS成分強め)をぐっちゃぐっちゃにかき混ぜた極東ハードコア”。少々乱暴な例えかもしれないが、オリエンタルな雰囲気とエモ成分が交錯する旋律の絶妙さは、まさにそう言い表したくなるほどで、私の大好物な要素でもある。加えて、ちょっとジェントっぽいサウンドの差し込み方も、海外バンドよりもヴィジュアル系バンドのそれっぽい。第一印象でそんなことを思ったのだが、あとで調べたら、Cazqui(猫曼珠、ex.NOCTURNAL BLOODLUST)がギターを弾いてる曲(先述の「the force」)があり、思わずニヤリとしながら納得。これは制作陣営がこっち側の人だなと確信する。そんなことをTwitterで呟いていたところ、ネオジャポ楽曲の多くを手掛けているSayaは、SRASH NOTES GARDENのギタリストであると知り合いのライターから教えてもらう。ああ! 知ってる! 何度かライブを観たことのあるバンドだった。10年代のヴィジュアル系には珍しく、エッジの効いたブリティッシュ系のサウンドを鳴らしていたのでよく覚えている。あの、ソリッドでタイトでセンスが光っていたギタリストか。バンド活動終了後、近年は作曲活動など幅広く活動しているようで、なんと、BiS、GANG PARADE、ユイ・ガ・ドクソン(GANG PARADE)のソロやPEDROなど、WACKのトラックデザインやらSCRAMBLESの制作に関わっているというではないか。これには納得を通り越して思わず笑ってしまった。こういう繋がりの発見って、ものすごく嬉しいのだが、なかなか人には伝わりづらい。

容赦ないギターの入れ方にビビっていたら、Cazquiが弾いていたという NEO JAPONISM「the force [Live Video]」

そうした楽曲だけでなく、ステージもよかった。赤と黒を基調とした衣装を纏った5人。全員声が出てるし、キレのよい動きは観ていて気持ちいい。黒髪ショートヘアのメンバー(のちに、滝沢ひなのと知る)の野太い声とロックスター然とした佇まいに耳と目を奪われる。髪に隠れて目線が読み取れず、マイクで表情が隠れないように脇を締めた左手で固定する“アイドル持ち”ではなく、肘を上げて柄が上を向いたラッパーのようなマイクの構えなので、表情がまるで見えない。それでいて感情の赴くままに歌を吐き出すので、ミステリアスでちょっとアブないパンクロッカーのようであり、とてもカッコよかった。そして、なんだか女帝感を漂わせるメンバー(のちに、辰巳さやかと知る)の伸びやかな歌声も印象的だった。彼女もまた、“アイドルはマイクを左手で持つ”というセオリーを崩すかのように、ここぞという時に右手に持ち換える様に、なんだかグッときた。

コンセプト:“闘う”に納得 NEO JAPONISM「rewind the story [Live Video]」

歌もダンスも全力で挑み、そこで外れてしまっても、それもまたライブの醍醐味。と言わんばかりの“説得力のあるパフォーマンスで観る者をねじ伏せていく”という趣。荒削りだがそれが勇ましく清々しい。終わった後“体育会系、武闘派”なんて言葉が頭をよぎったのだが、後からウェブサイトを覗いてみれば、個人プロフィールにある筆圧の強い“闘”の文字にこれまたグッときたのである。和柄のアートワークもいい、グッズの腕章の心をくすぐられた。“亜無亜危異”に“THE MAD CAPSULE MARKET’S”……そうだ、私は赤い腕章で育ってきたんだ。

こうして<OPC fes. -RISING->にて、ノーマークだったNEO JAPONISMにヤラれてしまった。“ネオジャポってこんなグループだったっけ?”と改めて過去動画などを掘ってみると、現在の5人がNEO JAPONISMを更新し、新たな魅力を生み出していることを知った。それから曲をしっかりと学んで<特区2020>に臨み、すっかりハマってしまった次第である。

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