第9回:マテリアルクラブと原田珠々華(少々)〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜
小出 祐介
南波 一海
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南波が小出のために選んだアイドル曲を聴いて、2人が気になっていることをフリートークする連載企画。今回は前週の“この続きは次週に持ち越し!”宣言を受け、アイドル曲ではなく小出が主宰する新音楽プロジェクト “マテリアルクラブ”をピックアップ。一応前回からの流れで原田珠々華話にも繋がってもいるような、いないような。
小出:
マテリアルクラブはプロジェクトなんです。中心にはもちろん僕がいて、そこにはずっとあっこ(福岡晃子)もいて。曲の必要に応じてゲストを呼んでっていう制作スタイル。
南波:
もちろん音楽そのものもフレーミングはしないと。
小出:
そうそう。フレーミングしないから、バンドではやれない曲の膨らまし方ができる。とはいえ作品の統一性というか、ただいろんなものが入ってますみたいなアソートになっちゃったら意味ないから、アルバムにはちゃんと芯を打ち込んだつもり。ただ、定形がないから、ありそうでないものにはなったと思いますけどね。ちゃんと歌っているのも1曲くらいしかないし。
南波:
というと?
小出:
ほぼラップ。
南波:
そうなんだ!
小出:
ちゃんと歌う曲の歌録りを一昨日したんですけど(※対談収録時)、マイクの前で歌ったの久々だわ、みたいな(笑)。ラップの方はまだ、自分でもやりながらじゃないとわからなくて、かなりテイクを重ねたりしたんだけど、その曲は5、6テイクくらいで大体終わっちゃった。普通に歌ったら早っ!みたいな。
南波:
やっぱり歌は経験値を積んでいるから。
小出:
うん。歌録りは2時間くらいで終わったけど、ラップは4、5時間ずっとやってたりして。フロウって音程があるようでないんだけど、完全にフロウに寄ってしまうとラッパー宣言になっちゃう。だから、歌とラップの中間みたいなあたりを行ったり来たりするようなところに落とし込んでる。ここは音程あっていいのかなとか、ここはあえて音程外そうかなとかって考え方をしてるんだけど、そうするとただ時々歌の音程外してるだけみたいに聞こえたりするわけ。そのいいところを探さないといけない。
南波:
どんなトラックに対してもいつも同じような音程でラップする人もいるし、もちろんトラックに合わせて細かく音程を変える人もいて、それのいいところも悪いところもわかるわけじゃないですか。だからいろいろ悩んだということ?
小出:
そういう技術的なところもそうなんだけど、その前にまず、自分は日本語のヒップホップに影響を受けているので、そこは恐れ多い領域だっていうふうに勝手に思っていて。多分、いまの若手のラッパーとかインターネット発の人はそういうのが全然ないと思うんですよ。もっとフランクな感じで始めた人が多いと思うんだけど、僕はやっぱり、恐れ多いと思ってるもんだから、バンドマン風情がこの領域に踏み込んで行ってしまってごめんさないっていう思いもあって。
南波:
さんピンCAMPリスペクトの世代だからね。
小出:
そうそうそう。当時を知ってると余計にね。RHYMESTERと「The Cut」を作ったときも、RHYMESTERをカッコよく見せたいっていう一心でやっていたし。そこに足を踏みいれていくなら、自分なりのフロウを見つけてからじゃないと、やってはいけないなと思って。そういう意味で、歌とラップの間を取るような、いい塩梅を考えついたとは思うんですけどね。これはMummy-Dさんも言っていたんだけど、ラップって音程をつけていくと、ケツメイシにたどり着くんですよ。
南波:
ああ、なるほど。究極的にはそこに行き着く。
小出:
そうそう、その方向を極めた究極形なんだよね。逆に言えば、ラップをこれから始めたいという人はケツメイシから入るとすごくわかりやすい。きっちりメロディがついてるフロウだから、歌う感覚にかなり近い。そこからメロディの感覚を省いていって、フロウとしての音程感を見つけていくっていうのが、これから始める人にはわかりやすいと言っていて、それはたしかにそうだなと。自分も歌とラップの中間を探っていくと、メロディを多くつけすぎてしまって“ケツメイシに接近してるな”って判断をすることができる。で、そこから引き返すみたいなことはけっこうやった。
南波:
メロディをほどよく無視するというか。
小出:
無視しているようでしてないし、歌っているふうで歌いすぎてないみたいな。
南波:
それは難しそう。
小出:
日頃歌っている人間としてはやっぱり難しく感じるよね。そこはひとつの肝だったかな。
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