【インタビュー】篠田麻里子、主演舞台第2弾に挑む役者としての信念「命をテーマにした作品は簡単ではない。けど、やりがいはある」 舞台<殺してもいい命>インタビュー
鈴木 健也
Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)
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「命をテーマにした作品は簡単ではないですよね。簡単ではないけど……演じていて、やりがいのある作品です」――篠田麻里子にとって女優として大きな挑戦となる舞台<殺してもいい命>が、2019年6月21日(金)〜6月30日(日)にサンシャイン劇場にて上演される。2018年2月に上演された舞台<アンフェアな月>の第2弾となる本作は、さまざまな伏線が張られ、予想を超える展開でストーリーが進行していく衝撃作。前作に続き、主役の雪平夏見を演じる篠田は、どのような想いを抱いて本作に臨もうとしているのか? 稽古中の彼女に話を訊いた。
メイク:奥川哲也
スタイリスト:根岸豪
<殺してもいい命>ストーリー
その男の事は知っていた。
左胸にアイスピックを突き立てられたその男の事は。
そして男の口には赤いリボンで結ばれたチラシが突っ込まれていた。
チラシにはこう書かれていた。
「殺人ビジネス始めます」。
「新規開業につき、最初の3人までは、特別価格30万円でご依頼お受けします」。
私はその男を知っていた。その殺された男は、私が、かつて愛した人だった…。
“フクロウ”を名乗る殺し屋によって次々と起こる連続殺人事件。かく乱される捜査。また元夫が殺害されたことで、雪平個人の生活にも変化が起こりはじめ……。
フクロウの目的は何か。そして事件の真相とは。
難しい作品ですけど、挑戦できるのは嬉しい
――<殺してもいい命>公式サイトに公開されている動画で、篠田さんは2018年2月に上演した前作<アンフェアな月>の時に課題を感じたという発言をされていますが、その課題について教えてもらえますか?
篠田:
刑事モノを舞台でやることが少ない中で、『アンフェア』シリーズのスピード感だったり、回想シーンだったりを舞台で見せることがすごく難しかったんです。説明ゼリフも多かったのですが、それにお客さんがついていけていなかった部分もあったのかなと。そのあたりは課題だったなって思いました。
――確かに、世界観や設定をセリフだけで説明することには限界がありますよね。
篠田:
そうなんです。台本10ページくらいのセリフを、いきなり聴いて理解するのは大変ですよね。例えば、回想シーンは映像とセリフが一緒にあったら理解しやすいけど、セリフだけだとちょっとわかりにくい。ドラマや映画などの映像なら見せ方はいくつかあるけど、舞台ってステージ全体を使った広い画になるので、音だったり、動きやセリフだけで見せないといけなくて。刑事モノとしてスピード感も大事だったので、見せ方に関しては課題がありました。
――篠田さんが演出のアイディアを出すこともありましたか?
篠田:
スタッフさんに、自分が悩んだ部分に関して“ここ、どうしたらいいですかね?”って話した時に、“もう少し演出でこうすればよかったね”って言っていただけて。“もし第2弾があるとしたら、その課題は越えていきたいです”って話していたので、今回第2弾ができることになって、難しい作品だと思うんですけど、挑戦できるのは嬉しいなって思っています。前作は小説を忠実に再現した感じでしたが、今回は舞台用にアレンジもしていて。ステージに説明用の文字が出るようになったり、プロジェクションマッピングを使った演出などもあるので、その課題はクリアできているかなって思っています。
――今回、原作小説をどのくらい再現するんですか?
篠田:
前作と同じく、今回も小説が基本になっていますね。ドラマ版は小説とはちょっと違っていますが、(パートナーとなる後輩刑事の)安藤との関係性は小説がもとになっています。
――原作では、回想シーンが物語の伏線になっていますよね。
篠田:
原作を読んでいると、過去の話なのか、現在の話なのかわからなくなることがありますよね。だから、私も時系列をメモしながら読んでいました。今はどこにいるのかとか、現在地を確認しながら。
――本作に対する篠田さんのコメントの中に“母性”という言葉が出てきますが、娘との関係性は大きなポイントになっていますよね。
篠田:
母性があるからこそ、雪平があんまり冷たい人物に見えないと思っています。彼女の中に正義があって、守るべきものがあるから、そういう行動をするんだよねっていうところはあるかなと。前作も母性がメインテーマになっていて、雪平が美央(娘)のために行動したり、犯人の女性も子どもが鍵になっていました。今回はその要素がありつつも、それぞれの刑事の人間ドラマというか、人生や抱えている問題などもテーマになっていて。今作は、雪平にとって身近な存在であった元旦那さんが殺されたところから始まりますし。
――原作では、雪平は“元夫の死体を見た時に心が動かなかった”という発言をしていますが、ここには複雑な心情があるなと思いました。
篠田:
そうですね。ショックは受けているけど本心を隠してそう言っているのか、それとも本当に何も感じない人なのかっていう部分のキャラクターの作り込みは、本当に難しいなって思います。
――そのほかにも、悪夢を見ないために寝ないなど、雪平というキャラクターは……
篠田:
極端ですよね。私も、どちらかと言うと白か黒かを決めたい人間なので極端人間なんですけど、日常生活をする上で極端過ぎると生きづらいじゃないですか。でも、雪平はそういうことを気にしていない。正義の中でしか生きていないし、自分が正しいと思うことだけをする。彼女のように母性的に本能的に動いている女性はあまりいないと思います。
――そういう人物だからこそ、雪平には法を犯した未成年者を射殺したという過去がありますよね。原作では、その射殺した未成年者の母親と再会するシーンが印象的でした。
篠田:
私、あのシーンでめちゃくちゃ泣きました。あの母親は加害者でもあり、被害者でもあって……自分の息子の事件はすでに風化してしまって、自分のまわりだけ時間が止まっている。時が経って、その事件の話ができる雪平が自分の目の前に現れた時に、たまっていた想いをぶちまけるわけじゃないですか。そこで彼女が言った“自分を解放してほしい”っていう言葉に、すごくグッときたんです。事件に巻き込まれて、その日から時が止まって、身動きも取れなくて、苦しくて、生きづらくて……そういう人が世の中にはたくさんいるんだろうなって考えたら、すごく泣けるシーンでした。
――そのシーンで、雪平は母親に“優秀な刑事でい続けなさい”と言われますよね。あの言葉は、そのあとの彼女の行動に大きな影響を与えたのではないかと思っています。
篠田:
そうですね。雪平が優秀な刑事でいることが、母親にとっての唯一の救いになっているんですよね。世の中って、白と黒を分けるのが難しいじゃないです。でも、間違えているかもしれないけど、絶対に正しいと思うことをやり通している雪平を理解してもらったシーンだなって思いました。だから、なんとも言い表せないですよね、あのシーンは。
――そんな雪平は、今回、非合法な捜査もしますよね。
篠田:
けっこう危ない橋を渡りますよね。だからこそ、前作より成長している安藤が、雪平の行動の歯止めになっているし、雪平でさえ1人では生きていけないんだなって思って。こういうパートナーをはじめとしたまわりの支えがあるから行動ができる。それこそ雪平も完璧じゃないんだなって思ったし、そのダメな部分が雪平の人間らしさを生み出しているんじゃないかなと。
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