わーすた三品、神宿小山、ネオジャポ福田 ボカロネイティブ世代アイドルの“歌ってみた” |「偶像音楽 斯斯然然」第76回

わーすた三品、神宿小山、ネオジャポ福田 ボカロネイティブ世代アイドルの“歌ってみた” |「偶像音楽 斯斯然然」第76回

冬将軍

音楽ものかき

2022.02.12
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ボカロシーンとは切っても切れない「歌ってみた」動画。今回は、“ボカロネイティブ世代”と言える現役アイドルの中で、ボカロ曲の「歌ってみた」動画を公開し、高いボーカルスキルを見せている3名をピックアップ。彼女たちのボーカルスタイルと実力の高さを分析していく。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ボカロシーン発、2021年の音楽シーンの革命児にもなったAdoのアルバム『狂言』がリリース。言わずと知れた大ヒット曲「うっせぇわ」をはじめ、ストリーミング再生1億回超えの「ギラギラ」「踊」という強度の高い楽曲が並ぶ。囁きから絶叫、野太い低音から突き抜ける高音まで、巧みなボーカル力を堪能できる。ネット上で活躍する歌い手が、フィジカルなCDリリースをする?……まるで、ボカロの先駆者、supercellが2009年にメジャーデビューした時と同じようなことを思ってしまった2022年。10年以上経っても、CDリリースの強さと説得力を改めて感じる。

【Ado】1st Album『狂言』クロスフェード

特に「うっせぇわ」は、その楽曲と歌唱のインパクトはもちろんのこと、“歌ってみた”文化によってジャンルを超えた社会現象を巻き起こした。コロナによって大きなダメージを受けたエンタテインメント界において、インターネット上のコンテンツが重要視されるようになったことは、今さら言うまでもないだろう。中でも“歌ってみた”を筆頭としたカヴァー動画はアイドルシーンにおいて、通常の活動では観ることのない新たな側面を見られる、見せられるものとして需要と供給の高い人気コンテンツとして確立されている。「うっせぇわ」をカヴァーしているアイドルがどれほどいることか。

うっせぇわ / Ado Covered by 野口衣織

当コラムで幾度となく紹介してきた=LOVEの野口衣織も、歌ってみたでその実力を広く知らしめた。かくゆう私が彼女の“歌ってみた”で、彼女のその正確に精確で丁寧な歌唱力を知った。テクニック的な部分はもちろんのこと、楽曲理解度と原曲へのリスペクトを込めた「うっせえわ」は絶品である。

そして、思わぬところからのAdoカヴァーが後藤真希。LiSA「炎」カヴァーで注目を浴びた彼女だが、Ado「ギラギラ」でその歌唱力をより広く知らしめた。

Ado『ギラギラ』/ 後藤真希が歌ってみた

国民的なアイドルとして一世を風靡し多くの人が知る彼女だが、“こんな歌唱力があったとは……!?”という驚愕と絶賛のコメントがずらり。勢いで押し切ることのできないテンポ感をじっくり腰を据えて歌う貫禄にやられてしまう。

デジタルネイティブなボカロ世代

Adoを生んだボカロシーンは、現在のポップスのトレンドとは別機軸にいると言っていいだろう。海外で流行しているトラップやチルアウトとは異なる音楽性。それは肉声ではないために、メロディ感の少ないものは向かない、というところも大きいだろう。以前、10代にクレイジーキャッツの「スーダラ節」を聴かせたら“ボカロ曲っぽい”と言われた話を取り上げたが、ボカロ映えする音の起伏を考えると、高低差の大きいものや、躍動感のあるキャッチーなメロディに行き着き、古典的であり普遍的な歌謡曲に近づく傾向もある。

みきとPは日本古来のキャッチー性の使い方が見事 ロキ/鏡音リン・みきとP

現在活躍するアイドルの多くはデジタルネイティブ世代であり、同時にボカロネイティブ世代でもある。子どもの頃からボカロが存在し、音楽に触れるきっかけの1つがボカロであるという世代だ。ボカロは動画サイトがメインとなっており、音と同時にイラストレーション&ムービーという視覚効果が入ってくる。すなわち、今の世代はボカロ楽曲を通常のポップスのように“聴く音楽”としてではなく、“視て聴くコンテンツ”として自然に捉えられている。それは歌や楽曲のみならず、ビジュアルや見せ方を含めた総合芸術としてのアイドルに通ずるところもあるように思う。

であるから、普段のアイドル活動とは別にボカロ曲の“歌ってみた”を表現方法の1つとして、器用に使い分けていくアイドルもいる。そこで、ここからはグループ活動以外でボカロ曲の“歌ってみた”をアップしている、今注目したい実力派3人をピックアップ。3人ともにボカロシーンの大人気曲、ツミキ「フォニイ」をカヴァーしている。刹那的なメロと奇抜なフックのあるメロが交錯していく、ボカロらしい複雑な音使いとキャッチー性が共存する、歌いごたえも聴きごたえもある曲だ。3人のそれぞれの楽曲解釈と得意とするボーカルスタイルの違いがよくわかるはず。

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