第30回:LOOΠΔから音圧問題について〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜 LOOΠΔ「Butterfly」を入口に、音圧問題、そして音楽で“沸く”ことを考える
南波 一海
小出 祐介
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南波が小出のために選んだアイドル曲を聴いて、2人が気になっていることをフリートークする連載。今回はLOOΠΔ「Butterfly」を入口に、楽曲制作する上での音圧問題について。音楽で“沸く”とはどういうことなのか?
南波:
前回、K-POPの話が出たので最近ずっと聴いているこれを。
【LOOΠΔ「Butterfly」】
小出:
「Butterfly」本当にいいよなー。
南波:
曲もヴォーカルも素晴らしいんだけど、音数が少なくて出音がいいっていうのがいまの音楽って感じですよね。小出くんが以前、TwitterでSpotifyのボリュームの話をチラッとしていたじゃないですか。それが興味深くて。
小出:
サブスクの音の仕組みについての話ですね。記事を読んでいるかた、音楽関係者でまだ知らないというかたにぜひ覚えておいてもらいたいんですけど、各種サブスクリプション、Amazon MusicとかSpotifyとかApple MusicとかYouTubeとかで音源がアップされる際、ラウドネスノーマライゼーションっていうのをされるんですけど、すっごく簡単にいうと、音圧が高いものは音量を下げられるんですね。各社基準は異なるようなんですけど、曲のレベルのばらつきをなく聴かせるために。
南波:
うん。
小出:
僕らが『ポラリス』というEPを作ったときに、実際にアップされたらどのくらいになるのかっていうのをシミュレートしながらミックスとマスタリングをしていたんです。調べてみると、日本のバンドとかアイドルの多くは、CDと比べると7~8dBくらいは下げられてる。
南波:
想像以上にがっつりですね。
小出:
多いと-10dBいくやつも全然ありますからね。それだけこれまでは他所より派手に聴こえるように、みんな音圧高めで作ってたってことだと思うんですけども、一方、いまの海外のヒップホップとか、このLOOΠΔとかがこれだけガシガシ音がきている感じに聴けるのは、ノーマライズにあんまりひっかかってないから、相対的に迫力があるように感じるってことなんです。底上げせずに、音源がダイナミックレンジを大きく取れた作りになっていて。それとどうやら、低音はいくら出しても引っかからないらしいんですよ。
南波:
中高域は多いと引っかかるけど、低音はOK。
小出:
だからドレイクとかは、下がってもYouTubeで0.1dBくらい。そのほかのところではほぼゼロ。音量が下がってないんですよ。サブスクで並べて聴いてしまうと、日本のバンドとかが、音小っちゃ……みたいになるのは、じつはそういう影響もある。あと、向こうの音楽は音数も手数も少なかったりするから、そういう音作りができちゃうっていう部分も多いにあると思っていて。
南波:
日本のアイドルとかロックがどれだけ手数が多いかっていうことですよね。
小出:
そうなんです。っていう、アレンジの話にもなってきちゃうんですよ。僕ももう、できるだけギター弾かないようにしようと思って(笑)。それは大げさかもしれないけど、ギターは音域的にも楽器の特性としても、飛び抜けてきちゃうし間を埋めがちなものだから、付き合い方は考えても全然いいと思う。音像っていう角度から楽曲を考えていくことで、また違うロックバンドのサウンドが見い出せるかもしれないし。(LOOΠΔを聴きながら)音数これだけだよ? でも、これで十分なんだよね。その代わり、音色選びとかEQに関してはものすごくこだわってるんだと思う。音数が少ないということは、どれだけ芳醇なコード感とか音色を感じられるかに意識を割かないといけないので、音色の性質を含めた吟味とか、1つひとつのボイシングを考え抜いてるんじゃないかなぁ。
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