第30回：LOOΠΔから音圧問題について〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜LOOΠΔ「Butterfly」を入口に、音圧問題、そして音楽で“沸く”ことを考える

南波：
韓国の弘大みたいな若者の街中でかかっている音楽をチェックすると、最新のアメリカのR&BとかK-POPが多いんですよね。続けて流れても音的に遜色がない。

小出：
いい悪いではないけど、日本がどれだけドメスティックな音楽シーンなのかっていうのは知ってないといけないですよね。これだけロックバンドばっかりのフェスをやってる国って珍しいですよ。

南波：
たしかに海外を見るとヘッドライナーがほぼヒップホップ～R&Bみたいなことも珍しくないですよね。

小出：
日本のロックシーンにもアイドルシーンにも“沸く”って文化があるじゃないですか。あれが日本っぽくしてるのかなって（笑）。

南波：
沸き曲の引力は本当に強いんだと思う。MIXとかコールがあまり入らないような曲を中心にやっているグループでも、MIXの入る曲をやった瞬間の熱気はやっぱりすごいから。

小出：
南波さんは実際、沸いたことってあります？

南波：
10代後半から20代前半の頃はあったけど、体をものすごい動かすとか声を出すっていうのは、自分とかその場に酔ってるのかなと思ってしまう人間なんですよ。これは音楽に没入した気持ちよさではなく、単に体を動かす気持ちよさなのではないかと。運動ってスッキリするじゃないですか。大人になってからはそんなふうに考えるようになってしまった。軽くリズムに乗ったりはするし、心の底から感動することもあるけれど、沸くということはまずないかなぁ。

小出：
なるほど。僕はもともとライヴを観に行くのが得意じゃないからあんまりないんだけど、ナンバーガールのラストから2番目のZepp Tokyoの公演を観たのがすごく大きい経験で。本物のバンドのライヴをよく知らないまま行ったんですけど、客席の頭から後ろまですさまじい熱狂の渦だったんですよ。熱量に体を動かさざるを得ない。演奏もすごくて、そこにただ佇むということができなかったっていうトランシーな経験をしたんですけど、それから何度かライヴに行っても、あれほどの体感を得られたことがなくて。そのすぐあとに同じ会場でプライマル・スクリームを観たんだけど、全然面白くなかった。失礼だけど（笑）。逆に、そういうものではないのかもしれないけど、アート・リンゼイの来日公演を代官山UNITに観に行ったときは面白かった。どう聴いたらいいかわからなくて、むしろ面白かった。

南波：
ああ、よくわかります。

小出：
20代前半のときにはクラブにも何度か行ってみたりして。ミニマルテクノの日とかメロウな感じのエレクトロの日とかいろいろあるじゃないですか。ミニマルの、くり返しのなかに酔っていく楽しさというのはわかる。ループのなかに淡々と溶けていくみたいな。フロアも空いてたし、みんなもマイペースに楽しんでいて、それはすごくよかった。別の日にアッパーなイベントに行ったら、音は上も下もわんわん出ていて、勢いだけで持っていってる感じがよくわからなかった。で、また別の日にフランスのキツネ（Kitsuné：パリのインディーズレーベル）のイベントに行ったんですよ。

南波：
キツネはアッパーではなく洗練された感じですよね。

小出：
けっこうおシャレな感じで、曲もよかったから楽しくて。自分がただ酔っ払っていただけかもしれないけど、フロアの前のほうに行って音に酔うみたいな感覚があったんだよね。ダンスってこれかもしれん、みたいな。いつの間にか、手に持ってたレッドブルを酒で割ったやつをぶちまけてた（笑）。というのが自分の代表的な客席側の経験。そういう、自分が音に乗っているときの感覚と、ロックフェスで勢いのあるバンドを観ているのとでは明らかに違うなと思っていて。これは曲にワーッとなっているのか、無理やり乗せられているのか、それともフェスという場だからなのかっていうのはいっつも考える。プレイヤーとして感覚が乖離するのはよくないから、ちょっとでも観るようにしているんだけど……どうしたらいいんだろうっていう。

南波：
シチュエーション込みの高揚感っていうのはもちろんありますよね。旅情に沸くというか。演者の人もテンション高かったりするし。

小出：
僕はフェスに出ても過剰に煽れないんですよね。昔は煽らなきゃいけないのかなと思っていて。

南波：
謎の義務感が（笑）。

小出：
いや、頑張って煽ってたんだよ。でも、“こいつ無理に上げようとしてるな”って思われてたと思う。自分でもキャラじゃないと思ってるし、うちのバンドはそうじゃないと思ってるんだけど、でも、そうしなきゃいけないのかなってちょっと思っちゃってた。それをやめてからはすごい楽しいんですよ。ここ2年くらい。

南波：
けっこう最近まで。

小出：
逆に、いま煽ってるときは本当の煽りなんですよ。一緒にもう一段階上にいこうぜって、こっちも本気で思ってるから。

南波：
本来は気持ちが昂ぶってそうなるべきなんだけど、サビが来たら手を挙げるとか、歌に入る前の4小節はタイガーファイヤー叫ぶっていうシステマチックな作法が出来上がっているじゃないですか。どうしてもそのシステムに引っ張られてしまうというか。

小出：
そうだねぇ。マネージャー視点から見てどう思います？

マネージャー大久保：
ここ最近は自然とお客さんが乗っていると思う。客席の後ろのほうまで揺らしているっていうのは、特にここ1年はすごく感じていて。僕も、必然性がないものに関しては無理やり作らなくていいんじゃないかって思ってます。

小出：
やっとそういうところに来れたよね。“沸かせなきゃ”っていうのがなくなった。