PassCode[ライブレポート]新たなる進撃の狼煙を上げた新体制初ライブ

PassCode[ライブレポート]新たなる進撃の狼煙を上げた新体制初ライブ

Pop'n'Roll 編集部

Pop'n'Roll 編集部

2021.09.12
  • ポスト
  • シェア
  • ブックマーク

PassCodeが、9月11日(土)に仙台GIGSにて<Zepp Tour 2021>初日公演を開催した。本記事では、オフィシャルレポートをお届けする。

<Zepp Tour 2021>仙台GIGS(2021年9月11日)

取材・文:阿刀 “DA” 大志

9月11日、PassCodeが新体制となって初となるツアーを仙台GIGSからスタートさせた。ここまでの道のりは非常に濃いものだった。彼女たちは8月3日に今田夢菜の勇退を発表し、そこから約3週間後の22日、すでに発表済みだった今ツアーを新メンバー有馬えみりを迎えた新体制で開始することを宣言。ファンにとってはなかなか頭が追いつかない急展開だったが、それはメンバーもほとんど同じだった。ほぼ接点のないところから有馬にコンタクトを取り、グループへの加入を打診。有馬がそれを受け入れ、そこから急ピッチでツアーに向けての準備を進めた。有馬はほとんどダンス経験がなかったが、複雑さではトップレベルを誇るPassCodeのダンスを、気合いと根性と情熱で身体に叩き込んでいった。休む暇はこれっぽっちもなかった。

そして迎えた初日。一新されたSEのあとに披露された1曲目はまさかの新曲。ヘヴィでアッパーかつ、複雑な展開はまさにPassCode印。まさかのオープニングに圧倒された観客だったが、2番のサビではさっそく拳を突き上げて4人のパフォーマンスに応えた。彼らのほぼすべてが気になっていたのは“有馬えみりの実力やいかに?”の一点に尽きる。しかし、ライブ開始から数分でその答えは出ていた。有馬えみりは、すごい。シャウトとダンスの両面でかなり高い技術を見せつけ、クリーンボーカルもしっかり楽曲に馴染んでいた。レジェンドクラスの前任者へ最大限のリスペクトを示しつつ、あくまでも“有馬えみり”だった。物怖じすることなく独自の解釈で咆哮し、しなやかに舞い、MCでは笑顔を浮かべる。この大舞台でそれができる彼女のステージ度胸は並外れているとしか言いようがない。もちろん、それだけではない。グループ全体が違和感なく調和している点も見逃せない。新体制1本目、ツアー初日でこれを可能にするために一体彼女たちはどれだけの努力を積み重ねてきたんだろうか。想像するだけで鳥肌が立つ。

ライブ最初のブロックが終わってMCに入る前、観客から大きな拍手がステージへ向けて送られた。それは涙がこみ上げそうになるぐらい温かく、いつまでもいつまでも鳴り止まなかった。ライブ中に送られる拍手としては、過去に経験がないぐらい異例の長さだった。そこに込められていたのは有馬に対する畏敬の念、そして、100%の状態までグループを仕上げてきた彼女たちのプロフェッショナル魂に対する感謝、感動、驚きだったはず。言葉にせずとも、拍手に乗せた彼らの想いはメンバーにも確実に伝わった。

この初日に対して、70%程度の完成度であったとしてもファンは問題ないと考えていただろう。有馬加入からとにかく時間がなかったのだ、仕方がない。しかし、ステージ上の4人だけはそれを許さなかった。最初から100%を目指し、それをやってのけた。有馬は当然、すごい。加入前から評価が高かったシャウトやグロウルだけでなく、PassCodeの一員として文句のつけようのないパフォーマンスを見せた。彼女にダンスを教え込んだ3人にとっても、自分自身のダンスを根本から見直すいい機会になり、さらに表現力を増したステージングへと結びついた。パフォーマンス中に4人が必死な表情を見せることはない。むしろ、頻繁に笑顔を浮かべるぐらいだったから恐ろしい。

グループを代表して丁寧に自分たちの想いを伝える場面が多い南菜生は、この半年の間に特に精神面においてさらなる成長を果たした。どうやってPassCodeという船の舵を取るべきか、メンバーもスタッフも彼女への信頼を高めている。パフォーマンスも当然のごとくパワフルだ。重要な歌唱パートを任されることが多い大上陽奈子の歌声はより力強くなり、安定感も高まっている。もともと持っていたポテンシャルに彼女自身がついに追いついたように見える。ここぞという時に響かせる伸びやかな歌声はPassCodeの推進力。そして、パフォーマンス面全体の柱となる高嶋楓の安定感が素晴らしい。彼女がライブ中に崩れることはなく、鉄壁と言っても過言ではない。そこに高嶋が立っているからこそ、ほかの3人が安心して飛び出していける。それに加え、オートチューンと相性のいい彼女の声も日に日に存在感を増している。

まだツアー初日ゆえ、セットリストについては詳しく触れられないが、とにかく彼女たちは新生PassCodeをとことんまで磨き上げてきた。もしかすると、今日のステージは奇跡のように映ったかもしれない。それはそうだ。今田の勇退発表時にこの光景を思い浮かべた人間は誰1人としていなかったはずだから。それどころか、来年2月の日本武道館公演で解散するんじゃないかという憶測すらあったぐらいだ。しかし、これは奇跡ではない。4人はどうやっても届かないと言われていた大木に成る果実を、あらゆる手を尽くしてがむしゃらにもぎ取ったのである。努力だけではどうにもならないはずのことを、PassCodeはその努力で可能にした。そんな現場に立ち会えたことがたまらなく嬉しい。

さあ、ここから彼女たちの新たな進撃が始まる。来年、日本武道館に立つ4人の姿はどんなものになっているのだろうか。もはや不安なんてない。楽しみしかない。今日の公演に立ち会った人々の視界には、武道館の向こうの景色も広がっているのではないだろうか。大阪・堺の小さな事務所からスタートした手作りのユニットは、数々の困難を乗り越えてここまで来た。今回も過去最大のピンチを大きな飛躍のチャンスへと見事に変えてのけた。今の彼女たちはそこらのバンドやアイドルでは太刀打ちできないぐらい強い。新生PassCodeの実力と可能性を、多くの音楽ファンと音楽関係者に感じてもらいたい。

次ページ