第4回:Especia〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」 〜 連載4回目は、Especiaから2人の思うシティポップス手口問題へ
小出 祐介
南波 一海
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南波が小出のために選んだアイドル曲を聴いて、2人が気になっていることをフリートークする連載。今回は早すぎたグループEspeciaのメンバーが解散後ソロになってリリースした楽曲とEspeciaサウンドを支えてきた作家陣の話しから、2人の思うシティポップス手口問題。
南波:
これが掲載される時期を考えると、ベイビーレイズJAPANとかPASSPO☆の解散のこととかも触れた方がいいのかなとか考えてしまったりして。
小出:
そうね。
南波:
でも、そうすると毎週のように解散の話題をしなくちゃいけなくなる可能性もあって。今の状況を考えると。
小出:
たしかに(笑)。そういう時期に入ったってことなのかなぁ。
南波:
この2組は新曲も出ていないので、この連載的にどうしようと悩んだりもしつつ……バニラビーンズは10月の解散前に最後のシングルが出るんですよね。
小出:
そうか、バニラビーンズも解散か。PASSPO☆とベビレは「アイドル戦国時代」近辺の中堅どころで、バニビはそれ以前から活動してるし、微妙に棲み分けが違うよね。
南波:
だから“特にこのあたりが解散している”とかじゃなくて、いろんな層で起きていることなんですよね。解散についてのあれこれは10月あたりに話してみたいなと思っています。とはいえ、今回も関係ある話かも。
小出:
じゃあ、9月の3曲目いきますか。
南波:
今週は何曲か合わせ技でいきたいなと。
小出:
同時にかけるってこと?
南波:
そういう意味じゃねえ(笑)。かけますよ。
【脇田もなり「LEMON」】
※試聴はございません。ご了承ください。
小出:
いいですね。誰ですか?
南波:
これは元Especiaの脇田もなりさんのセカンド・アルバム『AHEAD!』の曲です。
小出:
そうなんだ! これはすごいね。
南波:
アルバムの中で一番ぶっ飛んでいた曲だと思います。歌い方も今までとかなり違う感じで。
小出:
声を聴いてもまったくわからなかった。こんな歌い方もできるんだ。
南波:
プロデュースがイリシットツボイさんで、曲はツボイさんとバクバクドキンのYUIさんの共作です。
小出:サウンドもめっちゃいい。
南波:
ヒップホップのビートとベースに今のジャズが乗っかって、まさに現在進行形な音になっていて。
小出:
メロもいい。これはね、買います(笑)。
南波:
この流れでもう1曲いきますね。
【HALLCA「Dreamer」】
南波:
こっちは元Especiaの冨永悠香さんのソロです。曲はEspeciaにも書いていたPellyColoさんで、この感じが早くも懐かしいなと思ってしまって。
小出:
この曲を聴いていても思うのが、Especiaって本当に早かったんだなって。やっと世間がEspeciaに追いついてきたのかなって改めて思ったばかりなんですよ。こないだラジオで「No1 Sweeper」をかけた時にそう思った。3~4年早かったんだなと。今あれが出たら、ジャストフィットする感じで受け入れられたんじゃないかなって思う。
南波:
その意味で、上坂すみれさんのタイミングはすごかったなと。出たばかりの新譜でドンピシャでそうだったじゃないですか。東新レゾナントことSchtein&Longerを作編曲に迎えていて。
小出:
聴いた聴いた。これは相当よくできてたね。
【上坂すみれ「ノーフューチャーバカンス」】
小出:
いや、さすがだなと思った。出来もちゃんとアップデートされているし。
南波:
Especiaにあった、あのいかがわしさもしっかり出ているし。
小出:
上坂さんは音楽コスプレがすごくウマい人じゃないですか。このコスプレもウマくいってるというか。この曲の作詞は自分でやっているんですよね。どういう場面でどういう言葉が聞こえたら美味しいのかっていうのがわかってる。あと、この曲を聴いてEspeciaの時から変わってないなと思ったのが、サビがちょっと甘いっていう(笑)。サビまではすべてばっちりなのに、サビになった瞬間にメロが甘くなる。
南波:
なるほど。
小出:
「No1 Sweeper」もイントロから平歌はばっちりだけど、サビメロのラインの正解はどのへんなんだろうってなる(笑)。でもそれって、アーリー90'sその当時の曲を聴いてるとけっこうあるあるなんだよね。そのムードもきっちり纏っているという意味ではすごいのかもしれない。
南波:
確かに杏里のシティポップっぽい曲はそういうイメージがあります。
小出:
でしょ? (「ノーフューチャーバカンス」の間奏のサックスソロを聴いて)あ、サックスソロが入る曲は大体好き(笑)。ビデオもよかったしね。あとこのアルバム、掟ポルシェさん作の「チチキトク スグカエレ」が名曲すぎて。
南波:
あれは最高!
小出:
上坂さん、このアルバムであの曲が一番好きそう(笑)。掟さんのデモを忠実に再現しようと思って頑張ったってインタビュー記事で読んだ。「ノーフューチャーバカンス」と「チチキトク スグカエレ」が同居していることで、アルバムの時代性がすごいことになってる。今、90年代の広範囲なリバイバルが来てるじゃないですか。そこでリバイバルされていないところを上坂すみれ1人がリバイバルしているというか。その意味でも面白い。ロマンポルシェ。的なものとEspecia的なものがフックアップされているという(笑)。
南波:
話を戻すと、この「ノーフューチャーバカンス」を聴いて、当時のEspeciaとかSchtein&Longerの特別感を再確認しました。
小出:
あと、僕らが常々言っている、シティポップ手口問題ってあるじゃん。アイドルに限らずだけど、シティポップっぽいものをやればなんでも喜ぶと思っているのかっていう。
南波:
全部が全部好きというわけではなくて。
小出:
まず曲がよくてとか、歌詞がよくてとか、パフォーマンスがよくてっていうのがあってこそのものなんだけど、“シティポップ風味”にすると、アレンジとか出音で“これはいいものだ”みたいな気にさせられちゃうじゃないですか。このコード感、このサウンドだとよだれ出る、みたいなね。
南波:
それはいくらでもあるんですよね。
小出:
だから土岐麻子さんが、本当の意味での“現代のシティポップ”を作ってみたいってことでトオミヨウさんと作っている近作は、こういうことだろ!って気迫を感じる。もともと、こういうサウンドができた背景にはフュージョンとか、日本で言うAORを日本のポップスとして昇華、翻訳してきた先人たちの積み重ねがあったわけだけど、確かに見栄えはするんだよ。でも、ただのアレンジ手口としてやっているっていうのはね。それがどうとかじゃないんだけど、それは手口だよなぁって思ってしまう。
南波:
この話は本当によくしていて、折りに触れ出てくる話題だと思いますので、お見知りおきを(笑)。というわけで今週はポストEspeciaな3曲でした。
「LEMON」「Dreamer」「ノーフューチャーバカンス」楽曲解説
第一期Especiaのエースを張ったふたりのソロ作と、Especiaサウンドを彩ったプロデューサーによる提供曲がほぼ同時期にリリース。全部買いです。